■ 本日(2012.2.1)の新聞報道によれば、ソニーのCEOハワード・ストリンガーが退陣するとのことだ。ここ7期の赤字決算の責任をとったということらしい。
ここ数年のソニーの事業活動はとても順調とは言えない、歯がゆいばかりである。1年前には大賀典雄が亡くなっている。後任のCEOには彼の強烈なリーダシップを継承してほしいものだ。

【大賀典雄の訃報 2011.4.23】
元キャンディーズの田中好子さんが亡くなったとのこと。今日(2011.4.25)は告別式とのことで、式場が朝からファンの列で埋まったようだ。
それに昨日は、元ソニー社長・大賀典雄の訃報を聞いた。大賀典雄が、CBSソニー(現ソニーミュージックエンターテイメント)創立時に、実質社長としてすべてを取り仕切っていたことを知る人間にとっては、キャンディーズの所属レコード会社が、CBSソニーであったことを思うと、何か因縁を感じる。
ソフトにしても、ハードにしても、もう旧来の価値観では、これからの時代は生き抜けないことを、暗示しているようでもある。

手持ちのLDに、カラヤンと大賀の対話が収録された部分がある。(「ドキュメント・カラヤン・イン・ザルツブルグ」カラヤンの死の2年前1987年に収録されたもの)
他愛のない、高級スポーツカー・ポルシェの自慢話であるが、カラヤンが大賀に対して、「君は何でも 非常に速く考えるようにしてるようだが」と皮肉まじりにしゃべっているのが面白い!

 


■ 『SONYの旋律 ――私の履歴書―』 大賀典雄 (2003.5.18)


ソニーが創立されたのは、1946(昭和21)年。まだ戦後の灰燼がくすぶる混沌のなかでのスタート。そして、トランジスタへと第一のテーマを決め、日本初のトランジスタ・ラジオの発売は1955(昭和30年)であった。その後のダイナミックな成長は、戦後日本を象徴するサクセス・ストーリーである。天才技術者・井深大――天才経営者・盛田昭夫、続いて大賀典雄から出井伸之へと指揮棒は委ねられている。

大賀典雄は、東京芸大出身の音楽家(バリトン歌手)。学生時代から出入りしていたのが縁でソニーに引きずり込まれる。二足のわらじ――昼はソニーの社員として働き、夜は音楽活動をすることも可能ではないかと、思ったのだが。過労からオペラ公演で失敗し、やがてソニーに専従することになる。1964年、東京オリンピックの年に取締役に就任。1982年には52歳の若さで社長となる。ちょうどCD(コンパクトディスク)発表の時期であった。

大賀は、振り返って、自分が最も貢献したことは、ソニーが持つブランドイメージの向上プロダクト・プランニング(商品開発)、そして業界のスタンダード(標準規格)作りであったという。音楽の世界で学んできたこと経験してきたことを、ブランド戦略やソフトウェア事業などに生かせた。ソニーという五線譜の上に、「SONYの旋律」を描いてきたと。

日本人は、この爽快な「SONYの旋律」を、もう一度聞くことができるのだろうか。ソニーを激しく追走する韓国のサムソンは既に時価総額ではソニーを凌駕したという。日本経済を覆う暗闇のなかで明るい響きは聞こえて来ない。交響曲で言えば、もう演奏は第3楽章まで進んでいる。混沌のなか、か細く始まった第1楽章のテーマは、国産初のテープレコーダーだった。やがて、このテーマはトランジスタへと大きく成長する。第2楽章のテーマは、CDの発売を端緒とするデジタルだ。そして第3楽章では、映画・ゲームを初めとするソフトウェアへの比重を急激に高めている。フィナーレの第4楽章はどうなるのだろうか。

ソニーの売上高は連結ベースで約8兆円もの規模まで拡大し、もはや単なるAV機器メーカからは脱皮している。「ハードとソフトは車の両輪」を標榜し、1989年に48億ドルで買収したコロンビア映画、さらに1994年に発売したゲーム機「プレイステーション」が業績に大きく寄与しているのである。2002年のプレイステーションの売上高はハード、ソフトを合わせて1兆円に達したという。ソフト開発会社の市販ソフトも含めると、世界で2兆円を超える規模である。ゲーム機への進出に際しての任天堂との軋轢、大賀のリーダシップは本書に詳しい。

今や、音楽媒体といえばCDが当たり前であるが、このCDの開発は、1978年オランダのフィリップス本社を訪ねることから始まった。両者の規格の調整は大変だったという。大きな対立は記録時間の長さであった。フィリップスは60分を主張し、ソニーは「記録時間の長さは音楽の楽曲の時間から逆算して決めるべきだ」と主張する。当時、LPレコードではベートーベンの交響曲「第九」の収録に困っており、「主要な楽曲をコンパクトディスク1枚に収めるには直径12センチで75分間の容量が必要だ」と大賀は強く訴えたのだ。結局この主張が入れられた。音楽家としての面目躍如だ。

◆『SONYの旋律――私の履歴書――』 大賀典雄、日本経済新聞社、2003/5

◆ コロンビア映画買収の くだりはこちら → 『ソニー ドリーム・キッズの伝説』



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