■ 『文明の衝突』 同時多発テロの本質は?(2001.9.22)


ショッキングな事件であった。TVにくぎ付けになってしまった。吸い込まれるようにジェット旅客機が高層ビルに突っこんで行った。鮮明なTV画面。輝くような青空をバックに黒煙を上げる。ビルの崩壊する様が繰り返し繰り返し放映された。


ニューヨークの世界貿易センタービルのツインタワーの南北両棟に11日午前9時(日本時間午後10時)ごろ、ジェット旅客機が相次いで衝突、炎上した。さらにその数十分後、ワシントン郊外の米国防総省にジェット機が突っこんだ。19日現在、この同時多発テロ事件の首謀者はイスラム過激派の指導者、ウサマ・ビンラディンとされている。新聞の論調には「文明の衝突」との表現も見られた。


以前から気になっていた『文明の衝突』(ハンチントン著)をこの機会に読んでみた。原著の刊行は1996年。膨大な実証データに裏付けられた内容は、今日2001年でもそのまま通じる。示唆に富んだ洞察力に優れた記述がある。例えば、今回のような同時多発テロ――直接の文明の衝突ではないにしても――が起きると本書で挙げているシナリオが、にわかに現実感を帯びて来る。

本書では、文明を西欧、中国、日本、イスラム、ヒンドゥー、スラブ、ラテンアメリカ、アフリカの8つに分類する。西欧のリベラルな民主主義を普遍的なものとするのは西欧の考え方であって、他の文明圏から見ればそれは帝国主義とうつるという。東アジアの経済成長とイスラムの人口急増によって、中国文明とイスラム文明の勢力が拡大し、「儒教―イスラム・コネクション」を形成して西欧に敵対する。今後の世界は「西欧対非西欧」という対立の構図になるという。

21世紀の文明間の戦争というシナリオでは、イスラムと非イスラムのバランスに変化があると中国が台頭するという。中国とアメリカの軋轢が続き他の国々に影響を与える。そして日本は中国につく。著者の見解によれば、歴史的に見ると日本は自国が適切と考える強国と同盟して安全を守ってきたのである。こうしてアメリカ、ヨーロッパ、ロシア、インドは、中国と日本とイスラムの大部分を相手に世界戦争に突入する。異文明間戦争の結果は、参戦国の衰退を招く。世界勢力の中心は、北から南へシフトするというのだ。

おわりに、多文明的世界の平和のためのルールとして、著者は「共通性のルール」をあげる。世界の主要宗教―西欧キリスト教、正教会、ヒンドゥー教、仏教、イスラム教、儒教、道教、ユダヤ教―によって人類がどれほど分裂しているにせよ、これらの宗教もまた重要な価値観を共有している。人類が世界文明を発展させることがあるとすれば、こうした共通の特徴を追求して拡大していくことによって徐々にあらわれてくるだろう。あらゆる文明の住民は他の文明の住民と共通してもっている価値観や制度、生活習慣を模索し、それらを拡大しようとつとめるべきと。


◆『文明の衝突』 サミュエル・ハンチントン著、鈴木主税訳、集英社、1998/6

◆サミュエル・ハンチントン (Samuel P.Huntington) 1927年ニューヨーク生まれ。ハーヴァード大学政治学教授。同大学のジョン・オリン戦略研究所の所長。1977、78年には国際安全保障会議の安全保障担当コーディネーターをつとめた。アメリカを代表する戦略論の専門家で、政治学、戦略論、国際関係論に関する著作多数。


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