■ 『タグチメソッドわが発想法』 小規模実験で大きな結果確認 ( 2000.8.8)


タグチメソッドとは田口玄一博士の提唱する品質工学の手法である。博士は1924年生まれ。50年日本電信電話公社電気通信研究所に勤務、米プリンストン大学大学院教授などを務める。65年青山学院大学理工学部教授に就任。

1997年10月、デトロイトのウェスティンホテルで米国自動車殿堂入り受賞レセプションが開かれ、受賞者として招待された。名誉ある殿堂入りは本田宗一郎、豊田英二に次いで日本人としては3人目。殿堂入りの理由は、品質工学(タグチメソッド)の指導を通して米国自動車産業に貢献したこと。

タグチメソッドとは
80年、田口博士はAT&Tのベル研究所を訪れ品質保証部の仕事を手伝った。当時の品質保証とは、いわば「モグラ叩きゲーム」。次から次ぎと現れるモグラをいくら叩いても本質的な解決にな結びつかない。「設計段階できちんと設計しなければ、トラブルはなくならない」と強く主張する。

取り組んだのはマイクロプロセッサーを生産するフォトリソグラフィー工程。1.5cm平方に直径2ミクロンの穴を23万個開ける。均一な穴を開けるためにはどうしたらいいのかという問題。直交表を使って実験したことと、穴の直径のばらつきが減る条件を求めようとしたこと、が特徴である。この実験はばらつきを半減させ、生産時間も半分にする成果をもたらした。
ベル研での実験データをもとに、ゼロックス社のドン博士と意見交換を行った。当時ゼロックスではコピー機の紙送りの問題があったが、他の評価方法と比べ田口博士の手法が優れているとの結論に達した。ドン博士は、ゼロックスや関連企業に考えの浸透を進めるため、刺激的なネーミング『タグチメソッド』を考え出した。

ベル研で行った実験成果が83年『ベル・システム・テクニカル・ジャーナル(BSTJ)』誌上で公表され大きな反響を巻き起こした。その後タグチメソッドは、米フォード社をはじめアメリカ主力産業に大きく貢献した。

田口博士は、私のしてきた仕事は、2つに集約されると言う。一つは直交表を使いやすくしたこと。もう一つは機能のばらつきを減らすためのデータの取り方と解析手法を実験計画法にプラスしたこと。

直交表とは
例えば、どのような条件で生産性がよくなるか、というテーマがあるとき。考えられる組み合わせを全部実験すれば、膨大な数の実験を行わなければならない。直交表を使って、多くの条件をバランスさせて、数少ない実験で最適条件を求めることができる。どの行、どの列を取っても常に組み合わせが同じように出ることを、バランス(直交)していると呼ぶ。

もしAが2水準、B〜Hが3水準とすると、全部の組み合わせの実験を行うとしたら、4374通り(2×3×3×3×3×3×3×3)の実験を行わねばならない。4千以上の組み合わせの中から、直交した18通りの組み合わせで実験を行えば、全部の実験を行ったのと同じような成果が生まれであろうことを期待して直交表を用いる。この表を作成する一貫した理論はない。

直交表の目的は
少ない実験で最適な「答え」を見つけたいとき、「スモールスケールの実験でラージスケールの結果が確認できる」。1条件づつ研究を行う方法は、最適条件に対して客観性がない。実験を行う際に変えられる条件を全部バランスして配置しておけば、一つの条件だけで行うのではないから、より信用できる。さらに、不良(最適でないものを最適とする誤り)の実験を指摘し、最適でない設計や生産条件を生産にそのまま流す誤りを少なくすること。

タグチメソッドの意義を素人として概念的にまとめてみると。
直交表はバランスをとって全体を把握することができる。一例として、ソフトウェアの品質保証に、この考えが適用できるのではないかと考える。とかく大規模ソフトウェアの開発では、品質を確認するためのテスト工数が膨大なものになる。組み合わせ条件からむやみにテスト項目数を増やしても、工数がかかる割に品質の向上は限られたものである。直交表の考えを取り入れれば、有効なテスト計画を実現することができるであろう。

最後に胸に響いた田口語録を紹介する。
  ・品質とは、製品が出荷されてから社会に対して与える損失である
 ・実績をベースにしては、品質は改善されない
  ・品質はコストより重要ではない。品質第一主義の会社は必ず潰れる


◆『タグチメソッドわが発想法 なぜ私がアメリカを蘇らせた男なのか』 田口玄一著、経済界、1999/11


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