■ 『日本復活の救世主 大野耐一とトヨタ生産方式』 (2003.9.28)


ついに、あの世界最大の英語辞典と言われるOED (オックスフォード英語辞典)に、「kanban」(かんばん)と「kaizen」(改善)が載ったそうだ(1997年、追補版第3巻)。Japanese manufacturing system ……との説明。広辞苑を引いても「かんばん」は「看板」としか出てこないのだが。今や、「かんばん」で代表されるトヨタ方式が、我々の固定観念を飛び超えて、日本生まれの世界標準の生産技術とまで認知される状態になったのだろうか。

この本が、巷に溢れている凡百の「トヨタ本」と大きく違うのは、著者の熱意である。かんばん=トヨタ生産方式に共感する著者は、この方式が日産にも名前を変えて浸透していることを確認する。そして、日本のみならず、グローバル・スタンダードへと展開していることを。いま話題のデル・コンピュータの「ダイレクト・モデル戦略」の基盤でもある。単に自動車製造方式に限定されず、社会のインフラ・システムにトヨタ生産方式が組み込めるだろうという。個人はもとより政府、地方自治体が真剣に取り組めば、生活および行政の質は格段に向上すると。あたかも伝道者を思わせる熱い心で説く。

「かんばん」の生みの親である大野耐一と著者は親交があった。ロング・セラー『トヨタ生産方式』(大野耐一著、ダイヤモンド社、1987/5)のゴースト・ライターだったとのことだ。だからこそ、この本から溢れる熱気を理解できる。大野耐一に対する敬意が伝わってくる。自らの力で生み出した方式を、現場から猛反対を受けながらも試行錯誤を繰り返し、ついに確立したこと。

情報」をキーワードにして、「トヨタ生産方式」を復習して見よう――旧著『トヨタ生産方式』には「情報」という言葉を見つけることはできないのだが。大野耐一は、「ものをつくるに当たっては、”注文という情報”なしにつくってはならない」と。「トヨタ生産方式」の基本理念は、「徹底したムダの排除」。それを達成する要になる二大思想が、「ジャスト・イン・タイム」および「自働化」である。「かんばん」は「情報」なのだ。後工程が前工程に、「必要なものを、必要な分だけ、必要なときに」引き取りにいき、前工程はその引き取られた分だけつくって補充するのが「ジャスト・イン・タイム」生産であるが、この場合、後工程が前工程に引き取りにいく、この間を「引き取り情報」または「運搬指示情報」と呼ばれるものである。

→ トヨタの強さは 進化能力 『能力構築競争

◆『日本復活の救世主 大野耐一とトヨタ生産方式』 三戸節雄、清流出版、2003/9
◆三戸節雄 (みと・せつお) 昭和9年生まれ。東京都出身。経済ジャーナリスト。慶應義塾大学法学部卒業。昭和34年から39年まで『週間ダイヤモンド』、52年まで『プレジデント』誌で記者。経済と政治、社会、文化の関係を足で探究し、内外に優れたルポルタージュを発表。


■ 『トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして』 大野耐一 (2001.7.31)




青息吐息の日本株式会社にあって、一人気を吐くのが「トヨタ」。トヨタのバックボーンが「かんばん方式」であることは周知のこと。本書はそのかんばん方式の提唱者である故・大野耐一氏が1978年(昭和53年)にまとめたもの。いま手元にある本の奥付には、1997年(平成9年)で62版とある。超ロング・ベストセラーだ。改めて読み直してトヨタの秘密を探って見たい。


自動車メーカーの生産方式研究の第一人者である東京大学経済学部教授の藤本隆宏は、トヨタ生産方式の指導者(大野氏か?)から次のような話を聞かされたとのこと(出典は不明)。

「トヨタ生産方式の強みは何か。初級者は、在庫が少ないことだと答える。中級者になると、問題を顕在化させ、生産性向上、品質向上を強制するメカニズムが含まれていることだと言う。
しかし上級者は何と言うか。問題を顕在化して解決する作業を繰り返すうちに、問題がない状況が不安になって、みんなで一生懸命問題を探し始めることだ」と。藤本は言う。「何万もの社員が、いわば問題解決中毒になっているような状態。それがトヨタの凄みだ」。

この辺りが、ハーバード・ビジネスレビュー誌が言うところの「トヨタの遺伝子」であろうか。トヨタ生産方式は90年代に世界中の製造業が導入を競ったが、99年秋の「ハーバード・ビジネスレビュー」誌の論文は、「すべて成功しているとは言えない。トヨタには特別な遺伝子がある」と指摘している。

本書には、トヨタ生産方式は、企業のあらゆる種類のムダを徹底的に排除し生産効率を上げようというもの、とある。多種少量生産でどうしたら原価が安くなる方法を開発できるかがトリガーになった。ジャスト・イン・タイム自働化がトヨタ生産方式の二本柱である。「後工程が前工程に、必要なものを、必要なとき、必要なだけ引き取りに行く」。そうすれば、「前工程は引き取られた分だけつくればよい」。「かんばん」方式は、トヨタ生産方式をスムーズに動かす手段である。

以下に本書から抜き書きしてみよう。

◆われわれの製品は自由競争市場において、冷厳なる消費者の目によって選別されている。製品の原価がいくらかかったかということは、消費者には関係のないことである。その製品が消費者にとって価値あるものかどうかが問題なのである。

◆「なぜ」を5回繰り返すことができるか。「なぜ」を繰り返すことによって対策を発見できる。

現状の能力=仕事+ムダ (作業=働き+ムダ)と考える。ムダを徹底的に排除することによって、作業能率を大幅に向上させることが可能となる。

「つくり過ぎのムダ」は最悪のムダ。「かんばん」によって「つくり過ぎ」が完全に押さえられる。つくるものがあらかじめ示されないということに対する現場の心理的な抵抗感はなかなかぬぐい去ることができなかった。

◆「必要数」こそオールマイティ。「必要数」とは「売れ行き」のことである。すべて市場の動向から決まってくる。

◆0.1人も1人である 大きな生産量を、いかに少ない人数でやるか。これを工数で考えるとまちがう。人間の数で考えること。0.9人分の工数を減らしても、「省人化」にはならないからである。


◆『トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして――』 大野耐一著、ダイヤモンド社、昭和53/5
大野耐一 (おおの・たいいち) 明治45年、中国大連生まれ。昭和7年、名古屋高等工業機械科を卒業後、豊田紡織入社。昭和18年、トヨタ自動車工業に転籍。24年、機械工場長に就任、その後29年取締役、39年常務、45年専務、50年 副社長に就任。平成2年他界。


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