■ 『野球術』 大リーグを見る楽しみ (2001.8.23)



野球とは失敗のスポーツ」。これは363勝をあげた名投手ウォーレン・スパーンのことば。最高といわれるバッターでもおよそ65パーセントは失敗するというのだ。もう一言、「野球はまさにインチのゲームだ。わけても重要なのは、ホームプレートという名の、幅17インチのゴム板」。このようなアフォリズムが随所に詰まっている。一読して、野茂やイチローらが活躍する大リーグのTV放映に一段と深い楽しみを与えてくれる。

著者は政治コラムニスト。カナダから南カリフォルニアまで膨大なインタビューをこなしてこの本を上梓した。文庫本の上・下2巻で合計734ページの大冊。野球の4つの役どころ、監督術、投球術、打撃術、守備術にそれぞれ均等にページを割り振っている。興味あるエピソードを拾い読みしても良いし、じっくりと読んでトレーニングのヒントを得るのも良いだろう。ジョー・ディマジオとか、かつてのヒーロー伝説にもこと欠かない。あるいは、監督術はビジネス・マンの仕事術としても読めるかもしれない。

インタビューの相手は錚々たるメンバーである。監督術は、知将と言われているトニー・ラルーサ。カーディナルスの監督。投球術は、オレル・ハーシュハイザー。ドジャース、インディアンズ、ジャイアンツ、メッツで投げ、2000年ドジャースで引退。1988年には23勝8敗の成績でサイ・ヤング賞を獲得している。

打撃術は、トニー・グウィン、パドレスの外野手。首位打者獲得8回の打撃の職人。通算打率は現在3割3分8厘。2001年のシーズンを最後に現役を退くことが決まっている。そして守備術は、あの鉄人 カル・リプケン(写真)。オリオールズの遊撃手・三塁手。2632試合連続出場は大リーグの不滅の記録。2001年のオールスター戦で引退記念とも言うべきホームランを打ったのはまだ記憶に新しい。

監督術でラルーサは言う。チームのもてる力を最大限に発揮させる――これこそ監督の責任というべきだろう。対戦相手に関する適切な情報を選手にあたえるのはもちろんのこと、24名の士気をた高く保ち、レギュラーの怪我に即応できるよう、控え選手に準備させておくことも。野球はめまぐるしく戦局の変わるゲームだ、つまり予測のゲームというわけで、そうなれば事前の情報には測り知れない価値が出てくる。現代における情報戦の重要性に言及している。


◆『野球術 上、下』 ジョージ・F・ウィル著、芝山幹郎訳、文春文庫、2001/8 (単行本は1997)

◆ジョージ・F・ウィル 1941年生まれ。オクスフォード大学、プリンストン大学などで学んだ政治コラムニスト。77年にはピューリツァー賞を受賞。本書は90年に発売されるやニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに50週以上ランクインし、いまや古典とされる名著。



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