■ 『[よのなか]教科書 国語 心に届く日本語』 コミュニケーションするチカラ (2003.4.14)

4月は新学期の始まり。東京都 杉並区の区立中学校では、元リクルート営業部長藤原和博さんが校長に就任した。「学校は大人になるための技術や知識を身につける場所」と挨拶。

藤原さんが、教育に本格的に取り組み始めたのは98年春、中学生の公民の教科書を手にしたのがきっかけ。「世の中の仕組みを、あまりにもつまらなく説明している」と。社会学者と協力してハンバーガー店の適地選びやコスト計算など身近な題材を使った「人生の教科書[よのなか]」を作り、都内の中学で特別授業もした。本書は、そのシリーズのひとつ「国語」。

[よのなか]で最も必要とされる国語力とは、自分の意見を表現する力――「コミュニケーションするチカラ」である。従来とは別の視点でコミュニケーション力を復興させたいという。美しい日本語や漢字のボキャブラリーではなく、あくまでも「技術」だと。

いかにもバリバリの企業出身者らしく、第一のテーマは、表現法のトレーニングである。たとえば、講座@は「自己紹介はドラマチックに」とある。朝日新聞の連載漫画 「ののちゃん」を題材に、起承転結を学ぶ。以下、講座A「他人の気持ちを知る――”毒虫”になってみる」、「講座B 比喩を使いこなす――感情を歌詞で表現する」と続く。副題ユニークであり、とても従来の教科書とは比べられない。

講座Dは「ものごとを立体的に組み立てる」。ここでは、2つより3つで考えろ、という。まず「2つの対になる要素を考え、そこにもう1つ何かを加えることで意味付けを変化させてゆく」のだ。藤原さんも、企画書を書くときには、セールスポイントを必ず3つは考えるようにしている。3つ目を考え出す努力が頭を活性化させると。

具体的な表現を重視する姿勢には同感である。”気持ち悪い”ことを”気持ち悪い”と言わないで、具体的な事実で語る訓練が大切だと。感想を述べる前に、感想の前提としての「語るべき事実」が必要。この訓練は、入試や就職での小論文、面接、はては社会人になってからゴマンと書かされる報告書や企画書やメールの技術に生きてくると。


◆『[よのなか]教科書 国語 心に届く日本語』 藤原和博・重松清・橋本治、新潮社、2003/1

◆藤原和博 (ふじはら・かずひろ) 1955年、東京生まれ。[よのなか]教科書シリーズの発案者。身近な出来事を題材とした『人生の教科書[よのなか]』、『人生の教科書[ルール]』(共に筑摩書房)を刊行し、教育界の注目を集める。中学生から大人まで、人生を切り開いていくのに必要かつ本質的な内容を吟味し凝縮している。リクルート社フェローを経て、現在、杉並区教育委員会参与(教育改革担当)。2003年4月から杉並区の公立中学校に民間から初の校長として就任。


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