■ はやぶさの帰還はプロジェクト・マネジメントの力 (2010.7.5)

小惑星探査機「はやぶさ」の7年ぶりの地球帰還が報じられた。はやぶさは2003年5月に打ち上げられ、約20億キロ航行して05年にイトカワに到着した。その後、燃料漏れなど数々のトラブルを乗り越えて帰還に至った(2010.6.13)。









← 写真は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のホームページから




はやぶさは、世界初の本格的運用となったイオンエンジンや微小重力での試料採取法など、日本独自の技術をアピールし大きな成果を生んだ。

はやぶさには5つの使命があったという。
@イオンエンジンによる長距離航行、A惑星の重力を利用しての加速、B探査機の判断による小惑星への接近・着陸、C小惑星の試料採取、D地球への試料回収
いずれも、将来の惑星探査に欠かせない技術であり、@〜Cは達成できた。
なかでもB:探査機自らの判断で危険を回避するという「自律技術」が実用レベルに達した意義は大きいという。

はやぶさの地球帰還に至るまで、続発するトラブルへの悪戦苦闘に一喜一憂してきたが、どうしても、アポロ13号を思い出さずにはいられない。

アポロ13号は、3人の宇宙飛行士を乗せ、月に行く途中で酸素タンクが爆発してしまった。万策が尽き二進も三進もいかず、いま一歩で宇宙の孤児となるような危機的状況に陥った。しかし、地上の司令室と連携して、対応策をなんとか工夫し地球に無事に帰還することができた。→こちら

このアポロ13号で注目されるのは、いわゆるプロジェクト・マネジメントの重要さではないだろうか。「プロジェクト・マネジメント」とは、言い換えれば、「段取りを整えて物事を完遂する力」となるだろう。

プロジェクト=物事は、思惑通り・計画通りに行かないのが世の常である。事前に、あらゆる予想される不祥事や事故を計画に織り込むことが第一に大切である。最悪の事態を想定しておくことである。"Prepare for the worst"という金言がある。

一方、想定外の事態/トラブルが発生した場合には、あらゆる知恵を絞って、ねばり強く代替手段を工夫するなどして、当初の目的を達成すること。これがプロジェクト・マネジメント力だ。最もシビアな環境――宇宙空間以上に厳しい環境はない。はやぶさやアポロ13号が直面した状況がまさにそうだ。そこでトラブルが発生した時にこそ、真の技術力(蓄積された能力)が発揮されるのではないだろうか。トラブルをひとつ一つ解決する毎に、技術力が一段一段と伸びていくのも実感できる。

はやぶさは、3つの危機を乗り越え、帰還に至ったという。それぞれの危機対応の過程を照査すると、プロジェクト・マネジメント力の重要性を意識せずにはいられない。

最初の危機は2005年11月の通信途絶。イトカワ離陸後に姿勢制御用の化学エンジンから燃料が漏れ、その反動で姿勢が乱れてしまった。姿勢が乱れ、結果として太陽電池に日光が当たらず電力不足に陥る。アンテナが地球の方向からそれれば通信が途絶えるわけだ。
管制室はねばり強く監視を続け7週間後に、ようやく雑音の中から、はやぶさの微弱な信号をとらえた。アンテナの回転がたまたま地球へ向いたタイミングであった。

第2の危機は化学エンジン全滅。燃料漏れによって、化学エンジン12基がすべて故障してしまった。この危機は、馬力の弱い長距離航行用のイオンエンジンで代用することで乗り切った。しかし当初予定の帰還軌道に乗り損ねて3年間の遅れが生じた。その分、部品劣化の潜在トラブルもかかえ、イオンエンジンのトラブルにつながったた。

第3の危機は、イオンエンジンの故障。もっとも恐れていた懸念――4基のイオンエンジンの故障。この絶望的な危機は、故障した複数基のエンジンから、なんとか動作するエンジンを作り上げること、故障個所の違う2基をつなぎ合わせて1基分にすることで乗り切ったそうだ。
研究者が用心深く2基をつなぐ予備回路をあらかじめ仕込んでいたという。
――最悪の事態を想定しておくこと。まさにプロジェクト・マネジメントの真髄だ。ヴェテラン研究/設計者の知恵、とも言えるだろう。


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