■ 平塚市美術館:「香月泰男と丸木位里・俊、そして川田喜久治」  (2016.11.1)

開館25周年記念として、香月泰男の「シベリアシリーズ」、丸木位里・俊の「原爆の図」を併設展示している(2016.9.17〜11.20)。いずれの作品群も強いメッセージを発信している。
このような展示会を実現するなんて、なんてすごい企画力なんだ!


画家・香月泰男は1943年に応召され、終戦直後から1947年まで2年にわたりシベリアで過酷な抑留生活をおくった。
当時、ソ連の収容所全体で、囚人がだいたい1千万人いたと言われる。日本人捕虜は60万人だった。
そのうちの10パーセント強の7万人前後が亡くなったという。厳寒のなか、ろくに食糧も支給されず、ほとんどが栄養失調だったそうだ。

「シベリアシリーズ」は、この抑留生活の体験を描いたもの。全57点の連作。復員し没するまでのほぼ四半世紀をかけて描いた。

立花隆は、この香月泰男の一連の作品群を、普通の絵画のカテゴリーをはるかに突き抜けた芸術作品であると言う。
シベリアでの抑留生活をあらゆる角度からながめ直し、記憶の細部にわけいって、自分の過去をしゃぶりつくし、それを形象化することに熱中し、
一生それをやめず、ついに巨大な建築物を作りあげたと。  ⇒ こちら

香月泰男の絵の前に立つと、強いオーラの放射に揺さぶられる。大胆で骨太な構図は圧倒的だ。色彩もくっきりしている、黒を基調としている。
いずれも油彩なのだが、何度もしつこく絵具を塗り重ねたとは思えない。平板な絵具使いのように感じられるのに。

《朝陽》では真っ赤な太陽がシベリアの大地から今まさに浮かび上がってくる。希望を託すことがあったのだろうか。
黒く塗りつぶされた画面のなかに死者の顔が隠れているのがみえることがある。香月が描いたのは「レクイエム」だったのか。




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