■ 『プラネタリウムを作りました。7畳間で生まれた410万の星』 (2004.7.11)



著者・大平貴之さんは、今はフリーとのことだが、電機メーカーに勤務する傍らひとりでコツコツとプラネタリウムを作り上げた。そのプラネタリウムも中途半端なものではない。「メガスター」と称して投影できる星の数が100万を超えるものである。通常のプラネタリウムは最新型でもおよそ6千個から3万個というからその並はずれたすごさがわかる。天の川が一つひとつの星として投影されるのだ。

大平さんは、1970年の生まれ。たまたまテレビで拝見((2009.6.27NHK教育TV)したが、本書の読後感を裏切らない好青年であった。

1998年に公開した「メガスター」は、170万個もの星を投影でき、重さわずか30キログラムの移動式プラネタリウムである。今、メガスターは「メガスターU」まで機能拡張され、星の数も410万個になるとのこと。この2004年7月からは、日本科学未来館(東京都江東区青梅)に常設されるそうだ。

プラネタリウムにとりつかれたのは、小学4年生のころだという。夜光塗料を紙に塗って、直径5ミリほどの小さい円形に切り取る。それを部屋の壁に貼ってみた。明かりを消すと、まさに本当の星のように、オリオン座が堂々と輝いていた。星空を自分の手で作り出すという感覚を初めて味わったと。

高校の文化祭では、初めて機械らしい素材と方法でプラネタリウムを作る。工業用の軸受けやモーター、歯車を使ったもの。恒星投影機は、木造の骨格に黒ラシャ紙を貼ったピンホール式。2号機はフィルムに星を撮影する方式に改良した。大学在学中には、アマチュアとしては例のないレンズ投影式で3号機「アストロライナー」を製作する。

何から何まですべてをひとりで作っている。必要な技術も独学でマスターしているのだ。レンズ投影機の光学設計、駆動装置のメカニズム設計、モーターの回転制御に必要な電気技術、今や制御装置として欠かせないパソコンのマスター等々。最大の課題は恒星原板の作成である。金属原板に無数の星の穴を開けること。直径およそ数センチの円板に、0.013ミリの穴を数千個あけること。精密加工技術が必要だ。遂には、マイクロプロッターまで自作してしまう。

プラネタリウム作りに魅せられた本当の理由は何だろう。大平さんは、単に星が好きだからというだけではないと言う。プロジェクトXではないが、「モノづくり」の精神が原点にあるのではないかと思う。さまざまな技術を駆使してモノを作り出す喜びが、あったのではないか。

そして、夢を抱えた子供と真剣に付き合い、一人前として扱い丁寧に教えてくれた周囲の大人たちのバックアップを忘れることができない。
隣に引っ越してきたカメラメーカーのエンジニア杉浦さん。難しい電気回路の理屈を、初心者にわかるように教えてくれた。「やりたいようにやってごらん」が、杉浦さんの一貫した方針だった。

川崎青少年科学館の若宮さん。プラネタリウムを作っていることを話すと、ドームに案内し、わざわざ電源を入れて星を特別に映してくれた。コンソールでダイヤルの操作までさせてくれた。プラネタリウムの仕組みを教わり、操作する喜びまで体験できた。
トキナー光学の町田工場の皆さん。小学校6年生のころ。プラネタリウムを作りたいという事情を説明したら、何十枚かのレンズをただで分けてくれたという信じられない話。


◆ 大平貴之さんのサイト → スーパーリアルプラネタリウム

◆ 『プラネタリウムを作りました。7畳間で生まれた410万の星』 大平貴之著、エクスナレッジ、2003/6刊


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