■ 『宇宙を支配する6つの数』 もうひとつのビッグバン (2001.11.4)




眉につばをつけて読み始めたのだが、たった6つの数で宇宙を理解できるのかと。しかし、著者の意図は、これらの数を切り口にして、宇宙の新しい視点を紹介しようということらしい。ビッグバンによって宇宙は作り出された。その後、どのようにして、何十億もの銀河や、星や惑星が誕生したのだろうか。そしてわれわれ自身――精巧な生物ができあがったのか。宇宙が非常に精密に「調整」されているおかげで、生物はこの世に出現したのだという。壮大なストーリーに発展する。わくわくしながら読み進んだ。

6つの数のうち、2つは基本的な力に関するもの。2つは宇宙の大きさと全体の「組み立て」を定め、宇宙がいつまでも続くかどうかを決定するもの、残りの2つは、空間そのものの特性を定めているものである。
(1)電気力の強さを重力の強さで割ったもの N
(2)ヘリウムが核融合でできるときに質量の何%がエネルギーに変わるかを示すε(イプシロン)
(3)重力エネルギーが膨張エネルギーに対してどれだけあるかを示す Ω(オメガ)
(4)反重力の強さを示す λ(ラムダ)
(5)宇宙の種の大きさを示す目安となる Q
(6)空間の次元数 D

例えば、は原子間にはたらく電気力と重力の比である。10の36乗という大きな値で一定である。宇宙に構造をもたらしたといえる。惑星を軌道にとどめておくのは重力であり、銀河全体も重力に支配されている。この宇宙に寿命の長い大きな構造が存在できるのは、重力がほかの力に比べて弱いからなのだ。重力は、宇宙に構造をもたらす力である。重力が弱ければ弱いほど、その生み出すものはより壮大、より複雑になりうる。Nがずっと小さかったなら、人間のように複雑なものは出現できなかったという。

どの数もそれぞれにこの宇宙で重要な役割を演じている。どれか一つでもうまく「調整」されていなければ、星も生命も生まれてこなかっただろうと。素人が理解できたのは、最後の次元数である。我々の生きているのは3次元の世界であり、確かに2次元の「平面の世界」では、複雑な構造をつくるには限界がある。物体を二つに分割せずに物体のあいだに通路(たとえば消化管)を通すことはできないのだから。

この調整はただの事実、偶然の一致にすぎないのだろうか、それとも創造主の意志だったのか。著者の見解は、「多宇宙」という概念に行き着く。この宇宙とは別の宇宙が、さまざまな数値にしたがって、無数に存在しているだろう。だが、大部分は死産だったか、あるいは不妊だっただろう。ここが「正しい」組み合わせをもつ宇宙だからこそ、わたしたちは出現できたのであると。わたしたちのビッグバンは唯一のビッグバンではなかったかもしれない、という考えである。

終わりにアインシュタインの言葉を紹介しておこう。「宇宙でもっとも不可解なのは、宇宙が理解可能であることだ

本書の訳文は読みやすい、日本語としてもこなれている。このところ生硬な日本語訳ばかりに出会っていたので久しぶりにほっとしたものである。


◆ 『宇宙を支配する6つの数』 マーティン・リース著、林一訳、草思社、2001/10 (サイエンス・マスターズ16)


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