■『科学の横道 』 サイエンス・マインドを探る12の対話 (2013.12.4)





東日本大震災が2011.3.11に起きた。そして福島第一原発の事故が発生した。あの事故以来、科学に対する盲目的な信頼の危険性を、我々は切実に認識したはずだ。専門家と言われる集団に、一方的に依存するのではなく、自分で考える習慣が根づきはじめたのだろうか。本書は東日本大震災の直前に刊行されたようであるが、科学と向かい会う日本人の姿勢の再点検をうながしている。

本書の目的は、科学とどう接しているか、科学についてどう考えているかを、探り出す試みであるという。対話の相手は、芸術、文学から介護、それに政治など異分野の第一人者たちである。共通のテーマとして抽出されたのは、日本社会におけるサイエンス・マインドの乏しさ、だろう。普通の人々と科学との距離が遠いということ。イギリスと比較すると顕著であると。


イギリスでは、サイエンス・マインド――科学する心とか科学的なセンスといった意味――これが、日本よりずっと広まっている。例えば、チェルトナムという人口9万の街での科学フェスティバル。脳科学やロボットとのくらしなど大人の知的好奇心をターゲットにしたテーマで講演やワークショップが開かれている。特に科学に興味がなくても音楽祭や文学祭と同じように大人が楽しむように工夫されている。科学が大人にとって、教養と娯楽の対象になっている――この感覚が日本とかなり違う。

それに、イギリス人の国民性だ。とにかく疑い深くて議論好き。お上やマスコミが言ったことをまず斜めから見る。「BBCはこう言っているけど、私はこう思う」と。科学が気軽にパブの話題にでてくるというのは、ちょっとうらやましい。そもそも国民性のなかに、科学になじむ行動パターンが含まれているのだ。

こんな世論調査の結果が紹介されていた。イギリス人に過去12カ月間にどこへ出かけましたか、と聞くと。スポーツ観戦が27パーセント、ガーデンが32パーセント、科学館というのも18パーセントあったそうだ。上野に科学博物館があっても、行ったことのある人はわずかではないか!?そもそも調査の選択肢に科学館が設定されていることからして信じられない。

国家を動かすリーダーたちがサイエンス・マインドをもっていないのは危険だ。客観的な証拠にもとづいて合理的に判断すること、普遍的な法則を見つけること、科学的な見方や考え方は社会を動かしていくには欠かせないのだ。


◆ 『科学の横道 サイエンス・マインドを探る12の対話』 佐倉統編著、中公新書、2011/3

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