■ 『ザ・ラストマン』 最終責任者の覚悟  (2015.9.4)














「ラストマン」というのは日立用語らしい。日立工場時代のエピソードを記している。当時の工場長は部下が課長に昇進したときに、このように訓示したという。

「これからは、お前がこの課のラストマンなんだぞ。おまえが責任を取る意識を持ってないと、すべてが始まらない。部下に仕事をやってもらうのだとしても、最終責任はお前が取れよ。最終的な意思決定はお前がやるんだぞ」と。

社長にしても、事業の統括長にしても、課長にしても、「自分の後ろには、もう誰もいない」との覚悟をもって、仕事に取り組むべしとのことだ。

著者の川村隆さんは、系列会社から日立本社に出戻って、社長として立て直しの大任を命じられた。たしかに、沈める巨艦といわれた日立の意識改革をはかり業績を回復するためには、この不退転の決意が大きなバックボーンとなったのだろう。

「社会イノベーション事業に集中する」との方針が打ち出された。世界で勝てる事業を考えるとの思いがあったのだろう。当時16社の上場グループ会社を非上場にしたのも、大きな抵抗が予想される決断であった。たいていの改革は、スピードさえあれば何とかなるものだという。時間がかかると、反対勢力に根回しをされ、改革を断念せざるを得ない状況に追い込まれる場合もあるのだ。

日立はV字回復を達成した。これからグローバル企業としての大きな成長が期待される。まだまだGEの背中は遠いようだ。

日経新聞(2015.7.29)に次のような記事が掲載されていた。
 日立の純利益31%増 4〜6月、英の鉄道など好調。日立製作所が29日に発表した2015年4〜6月期連結決算(国際会計基準)は、純利益が549億5800万円と前年同期比31%増えた。中国では景気減速で建機などが苦戦したが、英国の鉄道をはじめ安定した社会インフラ関連の需要を取り込んだ。09年3月期に7873億円の最終赤字に陥ったが、事業ポートフォリオの入れ替えが奏功。世界景気が不安定化する中でも安定的に収益を伸ばした。◆売上高に当たる売上収益は7%増の2兆3140億円だった。高機能材料、自動車部品などが北米で好調だった。英国では総額1兆円規模の都市間高速鉄道プロジェクトの収益貢献が本格化。全社横断のコスト削減で収益体質も改善した。◆16年3月期通期では売上収益が前期比2%増の9兆9500億円、純利益が43%増の3100億円とする期初予想を据え置いた。中国の景気減速など事業環境の先行きに不透明感が強く、今後の見通しを保守的に見積もっている。


◆ 『ザ・ラストマン』 川村隆、角川書店、2015/3

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