■ 『「ものづくり」の科学史 』 世界を変えた《標準革命》 (2013.8.20)




本書は、既刊行の 『<標準>の哲学』を原本とし、内容の追加改訂を行い、学術文庫版とし2013年に刊行したものである。第7章が追加され、コンテナの歴史を紙幅を割いて解説している。 『<標準>の哲学 スタンダード・テクノロジーの300年』は  →こちら


この10年間の標準をめぐる大きな話題のひとつとして、コンテナの登場とそれによる輸送体系の大変革がある。物流にコンテナを利用することと、それを標準化したことが、世界規模の安価で高速な大量の物質輸送を生み出す鍵となったのだ。コンテナが世界的に流通し始めるのは1960年代後半。サイズや仕様の国際規格が定まってからのことである。コンテナが注目され、物流に多用されるようになるのは一足早い1950年代のことである。

アメリカのトラック業者マクリーンは、港での積み荷の積み替えを大幅に簡略化するために、コンテナを利用する方法を思いつく。そうすれば、港で荷物の積み替えのために待機する、トラックの長い列も解消されるはずと考えた。コンテナのサイズは、保有タンカーにちょうど収まるよう33フィートの長さに定めた。コンテナの積み替え作業は港湾労働者(沖仲仕)の作業を大幅に簡略化するもの。陸上の輸送と海上の輸送が効率よく接合したものであった。

当初コンテナの普及には大きな抵抗があった。港湾労働者の仕事を奪うなどの危機感から深刻な労使対立で港湾が閉鎖されることもあった。

全米規格協会は、1961年に、コンテナの規格を定めた。これが、国際標準化機構(ISO)で検討され国際規格となった。さらに1967年にモスクワのISOの会議で隅金具の規格が決定された。サイズと隅金具を含め、コンテナの国際標準規格が正式に決定された。陸海空の輸送、世界中の異なる国々での輸送、それら各種各様の条件をすべて満たすような規格に適合する標準コンテナが誕生したのだ。

日本へのコンテナ輸送時代の到来は1967年前後か。当時の日本海事協会年報には「コンテナ時代がやってきた!」との記事が掲載された。日本のコンテナ輸送を後押ししたもう一つの要因はベトナム戦争だ。米国はベトナムへの物資輸送を大規模に進めたのだが、ベトナムから米国への帰りのコンテナはほぼ空であった。輸送会社は、これを日本に立ち寄らせることを考える。コンテナ船は、ベトナムから日本に立ち寄り、衣料品・ラジオ・ステレオなどの輸出品を米国西海岸まで輸送することになった。

コンテナ輸送をとりまく技術は「インモーダル輸送技術」と言われる。それぞれの輸送方式をモードと呼べば、鉄道の輸送モード、トラックの輸送モード、船の輸送モードなどがある。インモーダルとは、そのような異なる輸送モードを相互に接続・統合し、個々の輸送モードを超越した巨大な輸送メガシステムを生み出すことをいう。

この巨大な輸送体系を可能にしたのは、積み替えと積み重ねがきわめて容易なコンテナという箱を利用したこと。そしてその箱を標準的なサイズ、仕様で統一したことによっている。標準化が達成されたことで、グローバルな物流体系が生み出され、それにより製造様式や市場の製品に多様性がもたらされることになった。統一規格を定めることで普遍的なプラットフォームが形成され、そのプラットフォーム上で、多様な生産と消費の活動が営まれるようになったのだ。


◆ 『「ものづくり」の科学史 世界を変えた《標準革命》』 橋本毅彦、講談社学術文庫、2013/8月刊
    原本:『<標準>の哲学 スタンダード・テクノロジーの300年』 講談社、2002    →こちら

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