■『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。』 コンサルタントはこうして組織をごちゃごちゃにする (2015.1.13)




思わず何のことか、と気を引かれるタイトルである。どうもコンサルタントの失敗事例らしい。本書は、コンサルタント批判の本ではなく、著者のビジネス経験から、コンサルティング業務の望ましいあり方を提唱している。方法論やツールではなく対話が重要であるという。クライアント企業は経営をコンサルタント任せにせず、自分たちでもっとちゃんと考えるべきだと。ある意味、当たり前のことかな。


アップルやグーグルは何をしたか?ビジネスの成功は、大きなチャンスを見逃さずに、まだ誰も気づいていないうちに、とらえることだ。マイクロソフトも、アップルも、グーグルも、自分自身でそれをやった

1980年以降、マイケル・ポーターの『競争の戦略』が出版されたころから、戦略コンサルタントの時代となった。細かい分析を行って結果を立派なグラフにまとめれば、クライアントは安心してくれる。あとは、ひとつの指標をX軸に、 別の指標をY軸に置いた4象限のチャートを作ること。これはコンサルティング・スキルのなかで最も使える重要なスキルだ。

戦略を実行する際の問題は、今後の経済状況や、業界・競合他社の動向、顧客のニーズなどの予測が前提となっていることだ。そんな予測をまともにできる人間がいるのだろうか?実際の市場動向がコンサルタントの予測をはるかに上回ることだってある。クライアント企業は突然に生産能力を大幅に拡大する必要に迫られ、にっちもさっちもいかない状態に追い込まれる。そして、コンサルが去ったあとに大量の資料が残る。

データよりも、ブラウンペーパーというアナログな方法が有効。現行の業務プロセスについて気づいた点を「附せん」に書いて貼りつけてもらえば、何がうまくいっていないのかが細かく分かる。附せんでコメントを貼りつけることで、話し合いの効果が発揮される。どんなに厳しい意見であろうと感情的にならずに伝えることができるからだ。問題があるのは業務プロセスであって、人ではないのだ。

あれこれと分析を行い資料や表を作成するなど、決まったことをきっちりやればビジネスの根本的な問題を明らかにできるとは限らない。人が原因で起こる問題を解決するのは、問題をわかっている人と話し合うのが一番いい。泥臭いブレインストーミングが効果的だ。どうしたらお互いにとってもっともよい形で仕事ができるか、みんなであれこれとアイデアを練ることだ。

数値目標が組織を振り回すことになる。目標達成のために人々が数字をごまかすことがある。会計や財務報告は細工しうほうだいだし、コストはどう算出するかによって決まるものであり、確実な数字ではない。日々のふれ合いのなかで指導やフィードバックを行ってこそ、社員の業績は向上する。上から押し付けられた目標よりも、ドラッカーも言うように、自分で決めた目標に取り組むほうが人はずっとやりがいを覚える。

人材開発プログラムに大きな期待はかけられない。教育の問題は、勉強している間に状況が変わることだ。スキル研修をせっせと行っているあいだに、経済はやがて回復し、クライアントはもはや大規模な変革など望まなくなっていること。研修の規模が大きいと、カリキュラムの内容を定期的に変更することができない。

社内研修ではすべての社員が身につけべきスキルは5つぐらいまでに絞り込むことだ。コーチング、フィードバック、対立解消などのコミュニケーションスキルは妥当だろう。ブレインストーミングや問題解決、クリエイティビティツールなども、新任マネージャー研修は必須だ。

頭を使いたくないからコンサルに決めさせる――ここから脱却することだ。ソリューションやメソッドや理論は真理ではなく、物事の仕組みに対するひとつの考え方にすぎないことを、ちゃんと理解することが大切。多くの企業はコンサルタントを雇って、自分たちの代わりに考えてもらおうとする。企業が戦略の策定や、リストラや、合併の実現可能性の検討などをいつもコンサルタント任せにしてしまうと、あなたの会社のことを何もわかっていない人間が会社のビジネスについて最も重要な意思決定を行っていることになる。


◆ 『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。コンサルタントはこうして組織をごちゃごちゃにする』カレン・フェラン/神崎朗子訳、大和書房、2014/5

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