■ 『四次元時計は狂わない』 21世紀 文明の逆説  (2014.12.4)



立花隆は今年74歳を迎えたそうだ。世の中が一層よく見えるようになったという。情報系のSN比(シグナル・ノイズ比)を高める努力をしている。雑多なもの、どうでもいいものは、最初から意識的に排除するのだ。しかし、精力的な活動も、東京オリンピック(2020年)あたりが限界かなと、寂しい話が出てくる。

あらゆる巨大科学の世界が世代交代を何度も重ねながら進んでいる。これらは、何十年がかりの仕事だから世代交代は必須だ。東日本大震災で日本が国が滅んだわけではない。この先日本が大破綻する時代を迎えたとしても、その先で日本を再興してくれる世代がすでに育ちつつあるという。

やはり、立花隆の視野は広い。特に科学技術系の分野で、日本がリーダーシップをとっている注目すべき革新情報を、ジャーナリスティックに提示してくれる。たとえば、X線自由電子レーザーの誕生では、バイオ・創薬の世界で大革命が期待されるとか。深海掘削船「ちきゅう」に乗り込んで、東日本大震災の震源の真上まで潜り、現場を取材するさまは年齢を忘れさせる。

東日本大震災以降、特に注目されるようになったエネルギー政策について、立花隆は、日本の生きる道は、多数の電源を併用するベスト・ミックス方式しかないという。どの電源を選ぶにしろ、頭をもっともっと使って技術を発展させ、効率を最高度に高めていくしかないと言い切る。LNG発電は日本が世界で最初に手がけた技術であり、クリーン度にしても発電効率にしても、最高度に進化している。

政治的話題としては、『竹島密約』(ロー・ダニエル著、草思社)の紹介が興味深い。竹島密約とは、1960年代に日韓の権力上層部間で交わされ以後約30年間遵守された「竹島問題永久タナ上げ協定」のことだ。「何でもオープンに」をルールにしている限り、政治も外交も大衆迎合的、水準低下が起こり、機能不全に陥る」と立花隆は言う。早く新しい知恵で再度のタナ上げをはからないと、日韓も日中も領土問題にひっかかったまま動きがとれない時代が当分続くだろう。誰一人として、あの時代のクセのある政治家たちに匹敵する政治的知恵の持ち主とは見えないと。

タイトルにある「四次元時計」は、いま日本で作られつつある、世界で最も精確な光格子時計と呼ばれるものを指す。百億年に1秒しか狂わないそうだ。この時計の基本アイデアを出し、試作しているのは東大大学院の香取秀俊教授。時計もこのように格段に精度が上がると、単なる時間の計測器ではなくなり、アインシュタインの相対性理論でいう、時間の歪みを測ることができるそうだ。我々が住んでいる世界は時間と空間が深く結びついた四次元世界である。(……残念ながら、この辺はよく理解できない)。

ひので」は、2006年から飛んでいる日本の太陽観測衛星である。超分解能の3台の望遠鏡を搭載している。太陽上のあらゆる現象が磁場的現象として解析できるようになった。黒点の正体は、「ひので」によって明らかになった。太陽内部から外部に突き出た巨大な磁力線の柱の断面のようなものだという。

黒点数がいま異常になっている。11年周期で増減するのだが、ここにきて周期が12.6年に伸びてきた。太陽の活動レベルが低くなると、地球の気温は低下する方向に向かう。太陽磁場が弱くなる結果、太陽磁場で妨げられてきた宇宙線がより強く地球に降りそそぐようになり、それが雲の核を作るからだ、という。地球温暖化ばかりではない、寒冷化の危機のほうが切実なのだ。

有人宇宙開発無用論という立花の主張は明快で説得力がある。理由の一つは、日本人は有人宇宙に伴う人の死のリスクに耐えられないということ。どんなに安全に配慮しても、近い将来、必ず犠牲者を出すだろう。そのとき日本人に、アメリカ人がチャレンジャー号事故やコロンビア号事故を毅然と乗り越えたようなことが期待できるだろうか。事故が起きたとたん、JAXAに対するものすごいバッシングがはじまり、有人宇宙関係者らは、二度と立ち直れないほどの攻撃にさらされるだろうと。

もう一つの理由は、有人は金がかかりすぎるということ。有人であれば安全係数をもう1ケタ上げなければならない。そのために必要な追加コストは膨大なものになるだろう。いま日本に不可欠なのは無人技術であって、有人技術ではない。独自の有人宇宙開発の意味は国威発揚ぐらいだ。独自性を発揮できる得意技術――無人技術で、日本は勝負すべきだ。
「はやぶさ」は、人間の操縦・操作を極限まで排除した完全自律ロボットに近いプロジェクトだった。サンプル・リターンに徹して重いものは何も持たず取ってきた。サンプルを超弩級の分析機器にかけることで、驚くような成果を上げることができた。あれこそ、日本のロボット技術・分析技術の高さを世界に示した成果だ。これからあの方向でどんどんやることだ。


◆『四次元時計は狂わない 21世紀 文明の逆説』 立花隆、文春新書、2014/10

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