■ 『お言葉ですが…ちょっとヘンだぞ四字熟語』 ピリリと辛い日本語探索 (2006.4.11)

この「お言葉ですが…」シリーズ、『週刊文春』の連載は1995年の5月に始まり、まだ続いている。愛読している。「ピリリと辛い日本語探索」とでも言えよう。本書は、このシリーズ第10冊。単行本としては、打ちどめの最終冊だそうだ。売れゆきはかんばしくないのか、世の中は携帯メールで間に合い、言葉のひとつ一つを吟味する余裕はないということか?

ピリリとした著者の偏屈ぶりは本書でも遺憾なく発揮されている。とくに大出版社とか大新聞社が、大きな看板に比べて、その本質がこけ脅かしで思わず馬脚を露わしてしまったようなとき。また生半可な知識を振りかざす似非学者に厳しい。

例えば三省堂の四字熟語の辞典について。なんでもかんでもむやみやたらに並べ立ててあり、作った人の見識がないという。こんなゴミためみたいなものをつくるようになってはいけない。「辞書の三省堂」も落ちたものだと。岩波書店のものは奇抜だそうだ。基準がキチンとしていない、行きあたりばったりだという。

産経新聞に載った「白骨温泉騒動」というエッセイを読む。ここに引かれた斎藤茂吉の短歌から話がひろがる。文語の詩歌を新かなになおすのは馬鹿だという。温泉教授の教養が暴露されてしまう。そして、この産経の文化部というのはどういうことになっているのだろうと慨嘆する。

著者の音感は鋭いと思う。かねて、オペラを原語でなく日本語でやるときにどうも違和感があったのだが、思わず、そうだったんだと合点した。こう言っている。

日本語は、音の弱い、特に子音の弱い言語である。口先だけで音を出す。対して西洋の言語は音が強い。声楽では訓練によってそれをさらに十倍も強くする。声楽を学んだ人がうたう日本の歌を聞くと異様な感じがするのは、それが日本の音ではないからである。チやシなどは、音が跳びだしてこっちの顔にぶつかってくる。


◆『お言葉ですが…I ちょっとヘンだぞ四字熟語』 高島俊男著、文藝春秋刊、2006/3

同著者の 『漢字と日本人』は→ こちら


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