■ パリのオペラ座:小澤征爾の《タンホイザー》 (2007.12.24)

ベルギーのブリュッセル――モネ劇場で大野和士の振る《ヴェルテル》を観て、ブルージュをまわり、最後はパリのオペラ座(バスティーユ)で小澤征爾の《タンホイザー》で打ち止めである(2007.12.24)。
《ウェルテル》→ こちら ブルージュ散策 → こちら

ちょうどクリスマス・イブとあって、パリは大変な人出である。オペラ座の前のオベリスクがライトアップされていたが、これはクリスマス時期だけのことか。このオペラ座(バスティーユ)は1989年に完成したそうだ。ガラスをたっぷりと使った外観はコロセウムを思わせるように円形にカーブしている。

広さはNHKホールほどの空間だろうか座席数は2,700という。席はちょうど通路際であったのだが、補助席が脇にたたみこまれている。開演間際に前列と合わせて、この補助席を開いて夫婦と思われる二人連れが着席したが、2幕目はほかの席に移動したようである。「この席は空いているのか?」と聞く立ち見と思われる観客がいたが、この補助席のルールはどうなっているのだろう。

この《タンホイザー》公演は、2007/3月の東京プロダクションと同一のものだという。演出ロバート・カーセン。直前のインターネット情報では、組合のストで舞台構成がままならず、前回公演は演奏会形式で行われたとのことで心配したのだが、当夜はストの影響もなく、カーセンの斬新な舞台演出を楽しむことができた。



出演者は、タンホイザーのステファン・グールドだけが東京公演と同じようだ。
指揮:小澤征爾
タンホイザー:ステファン・グールド(Stephen Gould)……東京公演と同じ
ヴェーヌス:ベトリーチェ・ユリア-マンゾン(Beatrice Uria-Monzon)
エリーザベト:エヴァ-マリア・ウェストブレック(Eva-Maria Westbroek)
ヴォルフラム:マティアス・ゴーネ(Matthias Goerne)
ヘルマン:フランツ-ヨーゼフ・ゼーリッヒ(Franz-Josef Selig)


とにかくパリの小澤征爾は大変な人気である。姿を見せるだけで文字通り一挙手一投足が注目され拍手喝采である。終演後の拍手は聴衆すべてが一体となって、まさに会場全体が揺れるような感じがする盛大なもの。

冒頭のシーンからどきっとする。闇の中から全裸ヌードの女性が登場する。どうやらタンホイザーは絵描きのようである、この女性をモデルにキャンバスに絵筆をふるうのだが、この女性はヴェーヌスを象徴するらしい。序曲でタンホイザーの周りを踊りくるうのも画家たちらしい、真っ赤な絵の具のなかで七転八倒する様子。

第1幕はヴェーヌスの登場。第2幕は、会場全体を使った演出。客席の後方から、歌合戦に出場するメンバーが登場する。タンホイザーもエリザベートも。カメラマンがフラッシュを焚いてまとわりつくので彼らは、写真週刊誌に追いかけられる有名人らしい。もちろん、この演出では歌合戦が、絵画の品評会といったものに読み替えられるわけだ。観客にはどんな絵かは見えないが、駄目な絵はイーゼルごと放り投げられる。
エリザベートはバリバリのやり手ビジネス・ウーマンといった様子である。現代画廊の若手女将かも。

第3幕。巡礼はどういう役割なのか読み切れなかったが。最後の救済のシーンでは、舞台全面に突如として、名画の数々が登場するという仕掛け――いずれも裸体を描いたもので有名な絵画の数々である。肉欲が芸術に昇華するというわけなのか? 絵の品評会のメンバーはいろいろな人種がいたようである、何かヒューマニズムを意図するものがあったのか?

演出のアイデアの面白さは、あったと思うのだが、残念ながらワーグナーを聞いたという感動があまりない。
主演のタンホイザー、エリザベートの歌唱には文句がない。たっぷりとした息の長いものでした。ヴェーヌスは音程がイマイチと感じました。もちろん冒頭シーンは吹き替えでしょうが。

小澤征爾の演奏はどうだったか。細やかな描写がていねいである、第2幕のエリザベートと父のやりとりなど。さすがに幕切れは盛り上がる。どうも オケが冴えないと感じたのだが、重量感がないのだ。旅の疲れのせいか、それとも会場の音響だったのかな?



戻る