■ 『世界を変えた6つの「気晴らし」の物語』 新・人類進化史 (2018.8.12)








どこか大げさなタイトル――「世界を変えた……」とか。要は、エンタテインメント分野でのイノベーションの物語である。はじめは、エンタテインメントを目的として誕生したイノベーションが、その後、分野を超えて思いがけない広がりを生み、技術や産業を発展させたのである。

例えば、初期ロボットは機械時計から生まれた。自動織機の発明――織る手順を記録する技術――はオルゴールへと転用される。フルートを吹く羊飼いでは、機械がフルートを吹く。機械の動きを制御するプログラミングの源は、回転するシリンダー上の歯のパターンであり、パターンを変えることでプログラム可能となった。それが音楽演奏に利用されたのだ。このプログラミング技術は、チャールズ・バベッジによってコンピューターへと発展する。

レミントンのタイプライター技術は、鍵盤ベースの楽器の音楽家とのつながりがある。10本の指をすべて独立に使って、データを恒久的媒体に記憶する技術への発展したのだ。キーボードがなければ、現在のデジタル革命は遅れたか、との意見もある。ほかにも興味深い実例が本書にはあふれている。

芸術と音響実験が結びつき、画期的な軍事技術へとつながった例がある。その飛躍に関係するのは、当時世界で最も魅惑的な映画スターだった、ヘディ・ラマーである。ラマーはワイマール共和国時代のドイツで女優になり武器商人と結婚した。1937年にヨーロッパを離れMGMスタジオからハリウッド映画の魅惑的な女優へなる。だが、実生活はアマチュア発明家であった。




自宅の居間で工学の教科書や図表に囲まれて過ごすことを好んだ。1940年ドイツの潜水艦が児童疎開船を沈没させ70人の子供の命を奪う事件がおきる。ラマーは潜水艦を攻撃する遠隔制御の魚雷の設計図をスケッチし始める。無線を使って水中で魚雷の方向を変える信号を送るのは容易だ。問題は、その信号は敵に検知されやすく、妨害されてしまうこと。ラマーはあらかじめ設定したパターンにしたがって、周波数をつねに変えることによって干渉を迂回できるシステムを思いついた。「周波数ホッピング」と呼んだ。1942年に特許を取得する。今日、スペクトラム拡散技術と呼ばれるものだ。携帯電話ネットワーク、ブルートゥース、ワイファイなどの無線システムに利用されている。





◆ 『世界を変えた6つの「気晴らし」の物語 新・人類進化史』 スティーブン・ジョンソン著/大田直子訳、朝日新聞出版、2017/11

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