■ 『島国チャイニーズ』 日本人は中国人を恐れているか (2011.10.4)




中国が日本人にとって、いま最も気になる国であることは間違いない。2010年末に内閣府が発表した調査結果では、中国に「親しみを感じない」とする回答が77.8パーセントにのぼったそうだ。あの東北大震災の直後、中国人の留学生とか研修生が一斉に日本を脱出したとのニュースには、見捨てるのか!と思ったものだ。

本書は、200人を超える在日チャイニーズの取材の積み重ねだそうだ。彼らの実態があまり知られていない。その結果、日本で思いがけない嫌がらせや差別体験を味わい、失意と反感を抱いて帰国する留学生があとを絶たないという。

日本人は中国人を恐れ、中国人は日本人を恐れている。両者を取り持つべきマスメディアは、むしろその恐怖を煽っている。無知にもとづく恐怖には、事実にもとづく知で対抗するしかない。両者の深い断絶の谷間を少しでも埋めようというのが著者のねらいである。"ステレオタイプ"に陥る危険"を注意ぶかく警戒していることがわかる。

中国人が日本社会に浸透している様子は驚くべきレベルだ。法務省が発表した外国人登録者数によれば、在日中国人ならびに台湾人は2010年度で68万7156人を数え、在日韓国・朝鮮人を12万人以上も引き離しての第1位となっている。

著者は6枚のフィルターを通して中国人の日本社会への浸透ぶりを眼前に投影してくれる。劇団四季で活躍するミュージカル俳優、三千人にも達する大学教授、芥川賞作家、留学生のバイト先での差別による反日への転換。中国人妻の問題、神戸の中国人学校に日本人の多数入学とか、池袋に出現したチャイナタウンなどだ。

たとえば、ミュージカルで有名な劇団四季には中国人俳優がおおぜいいる。『ライオンキング』の主役を演じたり、『キャッツ』に登場するネコにふんしていたりする。全員で24名にのぼるそうだ。

四季に入るためのオーディションは難関中の難関である。四季で大きな役を得るためのオーディションも、選ばれた者たちのあいだで熾烈なデッド・ヒートなのである。日本人の美徳としてこれまで語られてきた、誠実さ・一生懸命さ・努力という言葉が、ここでは中国人俳優に向けられているという。

四季を主宰する浅利慶太の言葉には将来を展望させるものがある。中国演劇のレベルの高さは驚くべきもの。ハムレット役の中国人俳優は、これまで浅利が観た世界中のハムレット役者のうちで3本の指に入るそうだ。この言葉には、中国を見上げも見下げもしない視線がある。日本人がなかなか持ちえなかった、中国に対するこうした視線から、四季に所属する24人の中国人ミュージカル俳優は生まれてきたのだ。


◆ 『島国チャイニーズ』 野村進、講談社、2011/8

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