■ 『はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか』 一気に読ませるリアル感がある  (2011.9.19)




現代作家の小説を自ら積極的に読むことなかったのだが、つい「はぐれ猿は熱帯雨林……」とかの珍奇な題名に惹かれて、手を出してしまった。

本書はSFの分類に入るのだろうか、最新科学技術の動向に無関心ではいられないテーマが重なっている――レア・メタル、知識ロボットとか。現代に生き延びる寄生虫とか。ホラー系の匂いもする。

作家・篠田節子については、名前だけを直木賞作家として知っていた。読後感として、科学技術について、しっかりと勉強しているのだなと感心した。関連書を通読して得られるような底の浅い知識を超えている。小説のテーマとしての基盤でもあり存在感を発揮している。

本書は4つの短編からなるが、その中の一編、「はぐれ猿は……」は不気味なロボットの出現としつこい追跡に、映画「ターミネーター」を思い起こさせる。かすかなモーター音とともに、どこからかロボットが姿を現す。女性主人公が次第に追いつめられる緊迫感がすごい。そして、意外なロボットの動き……。ちょっとユーモラスでもある。

冒頭読み始めて、甘いラブ・ストーリーの結末を予想したのだが、この感触は結末まで引き継がれる。ロボットには、福島原発の事故処理で活躍した探索ロボットのイメージが重なってくる。あのロボットの活躍ぶりをみると、この恐怖感もあり得ないことではないな、との現実感があふれる。

本編には、熱帯雨林を救うこと――人類の平和共存というメッセージが込められているらしい。あまりにもロボットの存在がリアルであるため、このメッセージは弱くなったようだ。


◆ 『はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか』 篠田節子、文藝春秋、2011/7

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