■ 『ちっちゃな科学』 好奇心がおおきくなる読書&教育論  (2016.6.28)





本書は絵本作家のかこさとしさんと、生物学者の福岡伸一さんとの共著。対談集でもあるようだ。かこさとしさんは、すでに90歳を超えている。大学の工学部を出て化学工業会社の研究者を経て、ずっと児童教育に携わってきた。数々の科学絵本 ――『かわ』『宇宙―そのひろがりをしろう』などを出している。

いま、子どもの理科離れが深刻だと言われている。かこさん、福岡ハカセともに、子どもへの理科教育を充実させたいという思いが強くあるあるようだ。かこさんは、子どもの成育には猛獣の棲むジャングルのような大自然はいらないという。トンボやオタマジャクシなど、子どもの相手になってくれる生き物がいる「小自然」こそが必要だと。


福岡ハカセは、生まれながらの昆虫少年だった。蝶や虫を見つけるためには、調べる・行ってみる・探す・いない・落胆する……また調べなおす、という試行錯誤を繰り返さなければいけない。このプロセスは、後年生物学を学び、研究するようになってからと、まったく同じだという。福岡ハカセにとっても、人生に必要なことはすべて虫――「小自然」、から学んだということだ。

かこ、福岡の両先生ともに、「小自然」に気づくようになることが大事だという。ちょっと目を凝らせば、あるいは耳を澄ませれば動物や植物、虫たちの活動というのが見えてきたり、聞こえてきたりするだろう。ちょっとしたところに植物がある。それを求めてある種の昆虫が寄ってくる。いくらでも気づくことができる。そこから理科は出発できる

子どもたちが理科離れをしている最大の理由は、大人が理科離れしているからだと、福岡ハカセは言う。大人がゴキブリやクモをみたらすぐにたたきつぶしたり、殺虫剤をまいたりするからだ。大人がもっと自然に関心を示せば、子どもたちも気づくはず。そこに精妙さや美しさやデザインの奇抜さがあることに。

福岡ハカセが大切にしているのは「センス・オブ・ワンダー」という言葉。『沈黙の春』を書いたレイチェル・カーソンの言葉だ。神秘さや不思議さに目を見はる感性のこと。自然の美しさは触れる喜びを教えてくれる。


◆ 『ちっちゃな科学 好奇心がおおきくなる読書&教育論』かこさとし・福岡伸一著、中公新書ラクレ、2016/4

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