■ 『綾とりで天の川』 いはゆる一つのプロ野球 (2008.9.9)
丸谷才一のエッセイのファンではあるが、新刊を待ちかねて書店に飛んで行くと言うほどではない。この本にしても、偶々書店に平積みされていたのに、強い磁力で引き寄せられたというわけだ。
いつもながらの発想のユニークさに、目次をさらっと見ただけでも、食欲がわいてくる。牛肉と自由、自転車屋の兄弟の伝記作者、ミイラの研究、シャーロック・ホームズの家系、……。そして、いつもの旧仮名遣いではある。
「君の瞳に乾杯」とは、もちろん映画『カサブランカ』の話題であるが、いつの間にか、新説が展開される。こんな見立ては今まであつたかしらと。こうである。
……ある日ふと、おや『カサブランカ』は『勧進帳』に似てるぞ、設定がかなり近いぞ、と気がついたのである。つまりハンフリ・ボガートが富樫に当たり、バーグマンが弁慶で、ポール・ヘンリードが義経になるわけですね。危険からの脱出といふ筋を具体的な空間(都市あるいは関所)へと集約した作劇術が共通してゐる。
でもやはり、野球が話題になると一段と冴えてくる。 → 『袖のボタン』
今年(2004年)は、イチローも大活躍した野球の年。何かで記念しなくちや。そこで一つ年忘れに、「野球いろは歌留多」を作らうと思ひ立ちました、とのこと。
(い)は、大物でなければと。誰だらうか。やはり……長嶋でせうね。絶対これしかないよ。長嶋で(い)となればこれ以上のものはちよつとむづかしいはずです。
「いはゆる一つのプロ野球」
(み)には新庄が登場。
「みんながみたいホーム・スチール」
オール・スターでホーム・スチールを成功させたシーンだ。よかった。あれでこそプレイヤーであると。ついでに、野村克也はホーム・スチールに7回成功している、とトリビアが紹介されている。「盗塁は脚ぢやない。頭です」と言つたそうだ。
◆『綾とりで天の川』 丸谷才一、文春文庫、2008/9
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