■ 『ダーウィンと出会った夏』  「種の起源」 を読む  (2016.9.10)




アメリカ南部テキサスの田舎町、時は1899年。主人公は11歳の女の子でキャルパーニアという名前。みんなからコーリー・ヴィーと呼ばれている。7人兄弟のなかでただ一人の女の子。3人の兄と3人の弟がいる。父は放牛業者で綿花栽培もやっているよう。変わり者のおじいちゃんと一緒だ。実験室でこつこつと新しい蒸留酒の研究などを続けている。

原題は「The Evolution of Calpurnia Tate」なのだが、日本語のタイトルには、なぜか"ダーウィン"とあり思わせぶりである。観察好きの普通の女の子キャルパーニアが、祖父の指導をうけ将来の生物研究者へと変身する様子を描いているのか。少女の素直な成長ぶりがさわやかな読後感をもたらす。祖父は、ダーウィンの『種の起源』を貸してくれたのだが、ちゃんと理解できたかな?



コーリーは身の回りの植物とか動物を観察するのが好きな女の子。庭からミミズの姿が消えたことがあった。兄や弟たちは釣りのえさがないとさわいで、干からびた地面を掘り返した。けれど、コーリーにとっては簡単に解決できることだった。ミミズは雨が降ると必ず出てくる。バケツに水を入れて雑木林にいき、日陰になっている地面に1日に2回水をかけた。4日目には、ただバケツをもっていくだけでよかった。ミミズが水を期待して表面に出てきたからだ。

あるとき、一番上の兄から、ポケットサイズの赤い革表紙のノートをもらった。「これに科学的な観察結果を書きとめるといい。おまえはりっぱな博物学者の卵だ」と。兄はすでに、妹コーリーの観察好きの素質を見通していたようだ。コーリーには、博物学者ってなんだろう、よくわからなかった。だが、夏が終わるまで博物学者になって過ごそうと思った。

観察ノートに書くようになると、それまで気づかなかったことにも目がむく。最初に書きとめたのは、愛犬エイジャクスのこと。彼はだらしなく口をあけて横たわっていたので、らくらくと歯をかぞえることができた。犬の上あごに深い畝があることに気がついた。畝はのどの奥にむかっている。食物がのどの奥にだけ進むようにできている。これは新発見だ。

ダーウィンの『種の起源』は当時話題だった。夕食の席で、牧師と祖父が話していた。自然は弱いものを取り除き、強いものを残していくと。コーリーは図書館でなんとか『種の起源』を借りようとするが、お母さんの手紙が必要ですと、断られる。このことを祖父に訴えると、わたしを書斎に連れていき、『種の起源』をかしてくれた。

コーリーにとって『種の起源』は、うちの前庭をながめることで理解できたようだ。すばらしいわ、とってもすごいと思うと。同じ種類のバッタでも、緑っぽく生まれたバッタたちはすぐに鳥に食べられてしまう。枯れた草の中にいる黄色いバッタは鳥たちに見つかりにくい。だから数が多いのかな。ダーウィンは正しかったのだ。

祖父は<科学的研究法>を教えてくれた。さまざまな奇妙な生き物、はっているものや、泳いでいるもの、飛んでいるものをつかまえ、いっしょに観察する。小さな紙のラベルに、採集した日付と時刻、場所を記すのだ。正確にスケッチすることも大切だ。図解書で同じものをみつけられるくらいでなければならない。

あるとき、わたしと祖父は、ちょっと様子の変わった植物を見つける。わたしは祖父が指でえりわけた植物の束、しおれた束をじっくりとながめる。「変異体だ。変種ともいう」。祖父は考え込みながら答えた。「このような葉についての記載は記憶にない。図版でもみた記憶がない」「異常型かもしれんし、何でもないかもしれん」。あるいはわれわれが完全なる新種を発見したのかもしれん。「長い間この日が来るのを待っていた」

植物の写真を撮り紙の箱に入れスミソニアン協会に送る。手紙には、「ベッチの新種を発見」と記し最後に祖父とコーニーが署名した。数カ月後にスミソニアン協会植物分類委員会から、待ち望んでいた結果が、祖父宛の電報で来たのだが、結果は……。


◆ 『ダーウィンと出会った夏』 ジャクリーン・ケリー/斎藤倫子訳、ほるぷ出版、2011/7

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