ニューヨークの悪夢 宮本亜門の 《ドン・ジョヴァンニ》 (2004.7.25)

東京二期会オペラ劇場 モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》、東京文化会館 2004年7月22日(木)

ドン・ジョヴァンニ (バリトン) 黒田博
ドンナ・エルヴィーラ (ソプラノ) 佐々木典子
ドンナ・アンナ (ソプラノ) 吉田恭子
レポレッロ (バス) 境信博
マゼット (バス) 斉木健詞
ツェルリーナ (メゾ・ソプラノ) 林美智子
騎士長 (バス) 堀野浩史
ドン・オッターヴィオ (テノール) 望月哲也

指揮:パスカル・ヴェロ、演出:宮本亜門
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団


開演前、舞台のカーテンからはみ出しているのは瓦礫のようである。幕が開くと、どこか場末のふきだまり。ドンナ・アンナに追いかけられて、ドン・ジョヴァンニとレポレッロが登場する。争いのすえドン・ジョヴァンニは拳銃で騎士長を撃ち殺してしまう。

この一連の騒動をテレビ局のクルーがしつこく追いかけたり、カメラマンがストロボを光らせる。現代のスキャンダル報道のパロディか。この辺のオペラの流れ、ごみごみと汚らしいセットに馴染めなかったである。

何の事前知識もなく、プログラムも読んでいなかったのだが、2幕に入ってようやく事情がわかった。広場に放置された棺を開けると、中に色鮮やかな星条旗が見えたのである。遺体を包んでいるらしい。ここに至って初めて、場所はニューヨーク、それも2001.9.11直後らしいということがわかった。どうにかピントが合って来た。

最後の地獄落の場面。ドン・ジョヴァンニを撃ち殺すのはアメリカ軍らしい。ちょっとショッキングなシーンであった。とすると、ドン・ジョヴァンニはビン・ラディンのつもりか?しかし、幕切れに全員が星条旗を手に振りかざし、さらに舞台奥では大きな星条旗を振り回すに至っては、演出の意図が全くわからなくなってしまった。いまさらアメリカ賛歌でもあるまい。

第2幕の初め、エルヴィーラ、ジョヴァンニ、レポレッロの三重唱。「静まれ、よこしまな心よ」あたりから音楽的にも楽しめました。ドンナ・エルヴィーラの佐々木典子さん、特に後半部の凛とした感じで、演技・歌唱ともに良かったですね。

ドン・ジョヴァンニとレポレッロ。同じバスということで声質がほとんど同じではなかったでしょうか。もっとくっきりと声質を分けた方が良かったのではと思いました。ツェルリーナの林美智子さん。熱演でした。可憐な容姿が映えました。マゼットとしては、声が太すぎたのでは?ちょっと違和感を感じました。ドン・オッターヴィオの望月哲也さん。甘いテノールがぴったりでした。当夜の歌唱で一番感心しました。

東フィルにはもう少し頑張って欲しいと思いました。特に木管群には色気が欲しい。


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