■ エル=バシャのピアノ演奏 《ハンマークラヴィーア》 (2007.4.17)

レバノンのピアニスト、アブデルラーマン・エル=バシャのピアノ・リサイタルに行ってきた。
東京文化会館小ホール 2007.4.11(木)、主催:東京労音




大野和士と協演した、プロコフィエフのピアノ協奏曲・全曲を聴いてから
気になっていたピアニストである。
こちら

曲目はベートーヴェンのピアノソナタ 第29番 《ハンマークラヴィーア》を中心として、ラヴェルの《鏡》、ラフマニノフの《音の絵》。アンコールで、シューベルト、プロコフィエフ、さらに自作まで披露したから、レパートリの多彩さは驚くべきものだ。


演奏会冒頭の《ハンマークラヴィーア》、登場してわずかに息を整えて直ちに、何のてらいもなく、この大曲を弾き始めた。
第1楽章のアタックの効いた、いかにもベートーヴェン固有の主題。かすかに、ためらいといった風な趣が感じられる主題だ。テンポも比較的ゆっくり、バリバリ弾ききるのではなく、低音から高音への音の広がり、ピアニシモから強烈なフォルテまで、ピアノのメカニズムを確かめて、それを愉しむような演奏だったと思う。

第2楽章は、ピリリと短いスケルツォ、これは次の第3楽章の静かさへつなぐためのブリッジの役割を果たしているのだろう。
静謐な第3楽章が聞きものだ。エル=バシャは、ことらさら入れ込んだ風ではない。落ち着いた弾きぶりである。演奏態度にしても、感情の起伏を見せるのは、ほんのわずかな瞬間である。
ときにショパンを思わせる響きを聞き取ったのだが、ベートーヴェンの先進性の現れかな。強烈な印象を与えた第1楽章とは鮮やかな対比である。

終曲の第4楽章。これはベートーヴェンの技巧を凝らした、大伽藍を思わせる集大成と言うべきものだろう。フーガ(?)が華麗に繰り広げられる。終曲へ向けて圧倒的なエネルギーの集中であった。
演奏時間が50分弱の、この大曲をリサイタルの第1曲として弾ききってしまった。すごい実力だ。

アンコールで披露された、自作の小曲。いかにもピアニストらしい愛らしい響きをもった曲であった。

プログラムで確認すると、エル=バシャは、1958年ベイルートに生まれとある。今年49歳だろう。大野和士とのCDのジャケット写真は、あまりにも若々しいが大分前のものだ。現実のステージ姿はオジさんに近い。拍手を受けてもほとんど笑顔は見せないスタイルのようだ。
エル=バシャは既に来日を11回を数えるとのこと。その割に個人的には聞く機会がまったくなかった。


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