■ 『銀婚式』 大学教授は銀婚式の夢を見るか (2012.1.12)
篠田節子の小説のファンである。ついさきごろ読んだのが、奇妙なタイトル ――『はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか』だ(→こちら )。
今回の小説は、タイトルからは、内容がすぐ連想できると思ったのだが。
主人公は、一流大学をでて、当時飛ぶ鳥を落とす勢いの証券会社に就職したエリートサラリーマン。ニューヨークで活躍するが倒産の憂き目にあう。日本に戻ったものの、損保会社ではリストラの執行役の立場に追いこまれ、鬱病になったか。そして舞台は仙台市外の大学へと展開する。
例によって精密な描写が続く。あと書きには参考書のリストが付されているが、加えて證券会社とか大学関係者に突っ込んだヒアリングを行ったようだ。たしかに文章にはリアリティがある。それに地方の大学教授が軽自動車を乗りまわすなんて生活感が濃い。
主人公の生き方は潔いのである。証券会社が倒産しても、自身の保身など考えずに、最後までひとり終戦処理にあたる。ダメ大学生を英文ゼミで鍛えて一流会社に合格させる。離婚した妻の身内の不幸をテキパキと献身的に処理するとか。受験に失敗した息子を、朝5時にたたき起こして特訓して国立大学に合格させる等々。あまりに主人公は格好良すぎすぎないか、もちろん色物語りも挟まれているのだが、スーパーマン物語として読んでしまった。
新聞連載だったことと関係があるのだろう。毎日の新聞を賑わせているキーワードが満ち満ちている。金融危機、証券倒産、家庭崩壊、過労死、リストラ、分数のできない大学生、老人介護、緩和ケア、……等々。それぞれのキーワードに関わる短いシーンを積み重ねている。全編をつらぬくのが、離ればなれの境遇に追い込まれたものの、信頼関係を取り戻した男女、ということか。"銀婚式"の言葉が、本文中には二度ほど出てくる。最終章の結びの言葉もそうだ。
◆『銀婚式』 篠田節子、毎日新聞社、2011/11
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