■ 『ゴリラの森、言葉の海』 高い社会性をもっている (2022.1.14)
本書は、霊長類学者・山極寿一さんと小説家・小川洋子さんの対談集。山極さんはゴリラ研究の第一人者。いま京都大学総長である。
小川さんの『博士の愛した数式』は読みましたね。
本書の多くはゴリラについて語られているのだが、生態を知るためだけの本ではない。ゴリラはあまりにも賢いので、私たちに多くの気づきを与えてくれるそうだ。
進化の過程をさかのぼって人間の謎を探っていたつもりが、ゴリラが鏡になり、そこに映し出された自らの姿に新たな発見をすると。
遺伝子の組み合わせをゲノムという。人間のゲノムをゴリラ、オランウータン、チンパンジーと比較すると、ほとんど違いがないそうだ。チンパンジーとは1.37パーセント、ゴリラとは1.75パーセント、オランウータンとは3パーセント以下しか違わないのだ。サルの系統とゴリラは、6パーセント以上違う。人間とチンパンジーとオランウータンはヒト科と呼ばれているヒトの仲間だ。ヒト科は哺乳類サル目(霊長類)の分類群のひとつ。
ゴリラはオスのリーダーを中心に複数のメスと子どもで群れを作って暮らしている。だいたい十頭ぐらいが平均的な群れの構成。なわばりは持たず、菜食主義である。驚くのは、ゴリラが実に複雑なコミュニケーションの方法をもっていること。
こぶしで胸を叩く「ドラミング」という行為がある。キングコングがやってました。相手を脅かすためにやっているんだと思いますが、まったく違うそうだ。戦いの宣言ではない。自己主張とか興奮とか好奇心とか、いろんな感情表現に使われるという。自分の意思を相手に危害と加えずに紳士的に伝えるという手段だ。
ゴリラは高い社会性をもっているという。サルが相手の顔を見つめるのは軽い威嚇である。ゴリラは違う。自分が相手に入りこんで相手を操作しようとするときに、のぞきこみが起こる ――遊びに誘うとき、交尾をするとき、子どもに言うことを聞かせるとき、喧嘩のあとの仲直りとか。ゴリラはお互いの顔をのぞき込んで喧嘩を収める。
人間はのぞきこんで、ゴリラのように顔を近づけることはない。のぞきこむのは、言葉がない状態のとき――赤ちゃんの寝顔をのぞきこむ時とかだ。人間は相手の顔を見ている必要がある。これは人間の顔の特徴によるのだろう。人間の目をよく見ると、サルや類人猿の目と比べて違う特徴がある。横長で白目があることだ。だから目がちょっと動いただけでもその動きをモニターできる。それで相手の心の動きを捉える。
言語の獲得はおそらく人間の進化の中でもとても新しいできごと。白目の動きを察知するためには互いにある程度離れないといけない、だから逆に言葉が生まれたのはこの距離を保つためなのかもしれない。
◆ 『ゴリラの森、言葉の海』 山極寿一・小川洋子、新潮文庫、令和3(2021)年/11月
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