■ グラインドボーン音楽祭の 《イェヌーファ》 (2005.9.20)


このレーザーディスク(LD)の主役は、何と言っても、コステルニチカ(教会のおばさん)を演じる、アニア・シリアである。第1幕の登場からして存在感を十分に発揮する。第2幕の、迫真的な演技など心を打つものがある。ただやや大ぶりかな。チェコの田舎町に舞い降りたブリュンヒルデといった感がある。しかし、声もしっかり伸びて衰えを感じさせない。1989年の収録である。

イェヌーファに可憐なイメージを期待するのは、あまりにも保守的だろうか。演技がやや堅い雰囲気があった。

オケが頑張ったと思う。アンドリュー・デイヴィス指揮、ロンドン・フィルハーモニーとある。早めのテンポであるが、緊張感が終始失われない。第2幕など、2人の葛藤をバックアップするオケの響きが素晴らしい。よくコントロールされていた。

レーンホフの演出はどうか。セットは全体的に簡素なものである。最終幕では、乱雑な室内をバックにラツァとイェヌーファが愛の二重唱を歌う。ヤナーチェックの壮麗な音楽に比べてチグハグなイメージであり物足りない。


■ オペラ映画 《イェヌーファ》 (2005.9.19)


中古屋を漁る楽しみは、もちろん思いもかけない出物とのめぐりあい。横浜のとある中古CD店でLD(レーザー・ディスク)の詰まったエサ箱を、ひっくり返していたら、ヤナーチェックのオペラ 《イェヌーファ》 に遭遇した。それも2組も手に入れることができた。以下の(1)と(2)である。

(1)は、テレビ局の制作したもの。いわゆるオペラ映画で、歌い手と出演者は別である。セットは映画と同様の本格的なもの。(2)はかの有名な英国のグラインドボーン音楽祭を収録したもの。アニア・シリヤとは懐かしい名前である。かつては《さまよえるオランダ人》のゼンタだ。それと、演出のニコラウス・レーンホフが、サヴァリッシュ版の《ニーベルングの指環》の演出を担当しているのは周知のこと。

とりあえず視聴が済んだのは(1)。さすがに映画化だけあって、俳優のイメージはいずれもぴったりである。特にイェヌーファの可憐なさまなど飛び抜けている。教会のおばさんもはまり役、厳しい切実感にあふれている。室内のセットも重量感のある本物。

こまかな心理描写も特筆できる。例えば、第1幕、シュテヴァを待つイェヌーファ。ローズマリーの花の枯れた様子に心情を託すところなど、後でラツァの仕業と分かるだけに細やかな演出である。民族色豊かな衣装や踊りを満喫できるのも楽しい(第3幕の結婚式とか)。

第2幕。ここは、コステルニチカ(教会のおばさん)の独壇場。緊迫感に溢れた場面である。音楽も厳しい響きがある。第3幕の終結で幸せを迎える。

残念なのは録音がモノラルであること。元の録音(CD)はステレオではなかったか。音質もちょっとさえない。


(1) オペラ映画 (1983年 チェコスロヴァキア・テレビジョン制作)
イェヌーファ:カグリエラ・ベニャチコヴァー(S)
教会のおばさん:ナジェンダ・クニップロヴァー(S)
フランチシェク・イーレク指揮、ブルノ国立歌劇場管弦楽団・合唱団
エヴァ・マリエ・ベルゲロヴァー監督

(2) グラインドボーン音楽祭の収録 (1989年)
イェヌーファ:ロバート・アレクサンダー(S)
教会のおばさん:アニヤ・シリヤ(S)
アンドリュー・デイヴィス指揮、ロンドン・フィルハーモニー、グラインドボーン音楽祭合唱団
ニコラウス・レーンホフ演出


■ ヤナーチェックのオペラ 《イェヌーファ》 (2004.12.4)

東京二期会オペラ劇場公演、ヤナーチェック作曲 《イェヌーファ》 を観てきた。ベルリン・コーミッシェ・オーパーとの共同制作とのこと (東京文化会館、2004.12.03)。

 指揮:阪哲朗
 演出:ヴィリー・デッカー
 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
 合唱:二期会合唱団

 <キャスト>
 ブリヤ家の女主人:与田朝子
 ラツァ・クレメニュ:羽山晃生
 シュテヴァ・ブリヤ:高橋淳
 コステルニチカ:渡辺美佐子
イェヌーファ:津山恵


ヤナーチェックの舞台は初体験でしたが楽しめました。特に最終幕は、素晴らしい演奏でした。

幕切れは、高い壁の前で、イェヌーファとラツァの愛の二重唱。突然、壁が取りさらわれて、壮大な大平原が俯瞰的に眼前に展開する。二人がその中に飛び込んで行く。それまで、とかく動きの多い、必然的な理由を感じられない無駄な動きでは?と思われる演出にちょっと不満でしたが、一挙に終幕で解消しました。

阪哲朗−東フィルのコンピも、第3幕はテンションの上がった演奏だったのではないでしょうか。生き生きとした演奏で、音量的にもデシベルがアップしていました。しかし、第2幕はあれだけエピソードを含んだ、起伏に富んだストーリー―音楽的はこのオペラのコアだと感じました――にもかかわらず、オケが平板で一本調子ではなかったかと。不満でした。意識的にメリハリを薄めて、第3幕への布石だったのかなと、まで思いましたが。

歌手陣も主役の二人は頑張りました。全体的にはもう少し練度を上げて欲しかったなと。初日はしょうがないでしょうか。ようやく第3幕になって、歌詞はドイツ語だったんだと分かった次第です。

第1幕は、演出的にはもっとバーバリズムに溢れた舞台を指向していたように思うのですが、歌手陣はようやく追いつくという感じでした。第2幕は、白黒を基調としたモノクロの舞台。歌手陣がやたらと動くのが気にかかる。心理的な起伏を表すとは思うのだが、いまいちピンと来ない。演技力の問題か。


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