■ 《ムツェンスク郡のマクベス夫人》 ロシア版ヴェリズモ・オペラ (2009.5.7)



連休も終わり小雨の中を、新国立劇場にショスタコーヴィチの歌劇《ムツェンスク郡のマクベス夫人》を観てきた。2009.5.7(木)。

どこかで「ロシア版ヴェリズモ・オペラ」との表現を読んだが。このオペラに、まさにぴったりである。ストーリーは、今日モーニングショーで話題に取り上げられるような事件を遙かに超えている。

コンクリートの無機質な壁の中で繰り広げられる、巨大な音響劇の印象である。
開幕から、ずーとテンションが高いままである。緊張が途切れることがない。狂言回しとも思える役柄もあるし、静かな場面もあるのだが、そこでも音楽・舞台ともにリラックス感はない。
音響は、終始暴力的とも言えるレベルで鳴り響く。おまけに15名ほどの金管のバンダが要所で出現し、ときには群衆と一体となって、音量を増幅し緊張感を高める。
このオペラを通して、最大の音量ピークは、セルゲイがカテリーナを陵辱する場面。そして最大の静寂もここだった!!!

低音は極端にグロテスクな音型。木琴が活躍し、これぞショスタコという感がある。例によってユーモラスというより諧謔的なメロディ。
どこか交響曲第4番に通底するむき出しの音楽を感じたのだが、やはり、同年代の作曲のようである。ショスタコーヴィチ25歳の作曲とのことだ。

このオペラ、DVDなどで見ると、もっと激しい演出もあるようである。→ こちら
今夜の演出はそれほど過激とも思えないものである。日本の観衆を考慮したのかな。
演出のリチャード・ジョーンズは、これをロイヤル・オペラで上演し、スカラ座でもやったようである。
調べると、スカラ座は2007/6月の上演で、我らが大野和士が指揮していることがわかった。新国でも振って欲しかった。
どこかで大野の考えを聞きたいものだ。大野和士の最新情報 → こちら

細かなユーモアが舞台各所で出てくる。そのひとつがTV受像器の扱い。主要場面ではさりげなくTVが置かれている。カテリーナとセルゲイがWベッドでこれからという場面。部屋の照明がピンク一色!セルゲイがタバコをつけTVを見るのだが、映像はプロレスのようである――力道山のようだがまさか!?

カテリーナの歌唱は終幕までスタミナがきれない。パワフルであった。
指揮者は、若杉弘(病状が気になる)に代わって、ミハイル・シンケビチ。遠目では40代に見えたが、ゲルギエフにマリインスキー劇場に呼ばれ音楽監督代理を務めている。オペラの経験は豊富なようである。
オケは東響であった。さすがに弦がなめらか。東フィルの印象とは点数に差が付く。


【キャスト】
指揮:ミハイル・シンケヴィチ
演出:リチャード・ジョーンズ

ボリス:ワレリー・アレクセイエフ
ジノーヴィー:内山信吾
カテリーナ:ステファニー・フリーデ
セルゲイ:ヴィクトール・ルトシュク
司祭:妻屋秀和
ソニェートカ:森山京子

合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団



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