■ 『水惑星の旅』 水は大丈夫か?(2011.8.19)
いま世界の水資源の状況は思った以上に深刻である。
福島原発事故を契機として将来のエネルギー問題が人類の大きな課題として浮かびあがってきたが、
地球規模の水不足も、決して見逃すことのできない大きな問題である。
椎名誠には危機感がある。この21世紀最大の問題とされている「水」に、どうも日本だけがあまりにも平和かつ呑気に傍観しているような気がしてならないと。水資源に恵まれ、世界でも稀な、水飢饉の心配が殆どない国というしあわせは、おしよせてくる世界規模の水不足に対して、危機感のないぶん脆弱である。
地球上の淡水はわずかなものだという。地球を1メートルの小さな球で考えると、その水の稀少さは、体験的にも衝撃である。
こうだ、……もし地球が1メートルの球だったら、地球の表面は全部で2畳ほどの広さ。そのうち1畳半弱が海で覆われている。海の平均の深さは0.3ミリほどしかない。
そして、地球の水はわずか677cc――ビール大ビン1本だ。このうち、大半は海水で、淡水はわずか17cc。うち12ccは氷河などで、飲み水としての淡水はわずか5ccでしかない。1メートルの小さな地球の人々が利用できる淡水はわずかスプーン一杯だという。(永井智也著『地球がもし100cmの球だったら』)
海水を淡水化するには逆浸透膜技術がある。水の分子は通しても、溶け込んでいる物質は通さないという、逆浸透膜を利用した技術。日本の繊維メーカーや電気メーカー各社が実用段階に入っていて世界各国で真水製造システムとして技術指導・設備建設に活躍しているとのこと。この技術で世界の水飢饉を救えるかもしれない。
雨水利用は世界の常識である。ドイツの雨水利用は徹底していて、ベルリン市などは雨水をそのままで下水に流すと、雨水としての下水料金を徴収するという。
中国の水資源は切実な問題である。黄河の水不足は供給源であるチベットに原因がある。中国のチベットへの固執には、チベットが内包している、良質の水資源の供給地という理由もあるという。チベットから中国に直接巨大な導水トンネルをひく計画もあるそうだ。また、中国資本が日本の水脈をねらっているという話もある。
さらに「バーチャルウォーター」という考え方が紹介されている。その製品をつくるのにどれだけ水を使ったか、というものだ。仮想水と呼んでもいい。
ほとんどの穀物、加工製品、食肉はそれが製品になるまで多量の水を必要とする。1キログラムの農作物を得るために、トウモロコシ1100倍、小麦900倍、大豆1650倍の水が必要。牛肉には約1万5000倍の水が使われるとの試算がある。だから牛丼1杯を作るのに使われる水の量は約2立方メートル(2000リットル)だという。
水の貴重さを再認識させる指数として、この「バーチャルウォーター」は根付くだろうか。
◆『水惑星の旅』椎名誠、新潮選書、2011/5
HOME | 読書ノートIndex | ≪≪ 前の読書ノートへ | 次の読書ノートへ ≫≫ |