■ 『脳を鍛えるには運動しかない』 人間はもともと動くように生まれついている (2016.7.9)








本書のタイトルは、まるでNHKの「ためしてガッテン」のようである。番組で聞きかじった知識が、本書には随所にちりばめられているように感じる。健康な生活をおくるための、日常生活上のヒント満載か。




人間はもともと動くように生まれついている。つまり動物だということは、忘れられがちだ。動くことの少ない現代の生活は人間本来の性質を壊し、人類という種の存続を根底から脅かしているのではないか。アメリカのおとなの65パーセントは、太りすぎである。さらに国民の10パーセントが糖尿病(U型)を患っているという。この破滅的な疾病の原因は、運動不足と栄養の偏りである。

実は、わたしたちの身体のすべてを取りしきっているのは、脳である。ニューロンのネットワークが大きな役割を果たしている。前頭葉では、読んだものを信号に変換しニューロンのつながりに変えている。ニューロンは1000億個以上もあり、それぞれが緊密なネットワークを形成し、情報を相互に伝えている。ニューロンは新しい結合を作っては成長し、配線の変更と適合化を繰り返しているのだ。

運動をすると、セロトニンやアドレナリンやドーパミン――思考や感情にかかわる重要な神経伝達物質――が増える。
それは、血液の量を増やし燃料を調節し、ニューロンの活動と発生を促す。さらに、脳に入ってくる刺激がニューロンの統合を強めていく。そうしてできた脳の回路は情報が何度も通ることでさらに強くなる。
活発な運動は脳の活性化に結びつく。ほどほどの運動量――たとえば週に1時間半のウォーキングとか――でも、効果が見られたそうだ。


ライフスタイル次第で健康ですごせる期間――単に長生きするのではなく、よりよくいきる人生――が増えるだろう。運動がどれほど健康を支えてくれるか、以下に挙げる
@心血管系を強くする:安静時の血圧が下がり、体と脳の血管の負担が減る。
A燃料を調整する:運動することで余剰の燃料が消費されると、高血糖が解消する。またインスリンが調整されてアミロイド斑の蓄積防止につながる。
B肥満を防ぐ:自然に肥満を防ぎカロリーを消費し食欲を抑える。体脂肪は心血管系ど代謝系に重大な害となるばかりか脳にも悪影響を及ぼす。
Cストレスの閾値を上げる:過剰なコルチゾールを抑止し、慢性的なストレスなどうつや認知症の原因を抑える。
D気分を明るくする:より多くの神経伝達物質、神経栄養因子。より強いニューロンの結びつきは、うつや不安によって起きる海馬の萎縮を予防する。
E免疫系を強化する:ほどほどの運動でも免疫系の抗体とリンパ球が活性化される。がんの最大の危険因子は運動不足だ。また、運動すると免疫系のバランスが回復し炎症を抑える効果がある。
F骨を強くする: 骨粗しょう症を予防できる。
G意欲を高める:運動はドーパミン――意欲と運動システムの要となる神経伝達物質――の自然減少を予防する。体を動かすと、ニューロンどうしのつながりが強められ、自然とやる気が増す。パーキンソン病の予防にもなる。
Hニューロンの可塑性を高める:運動するとニューロンの可塑性や新生、つまり脳の成長に欠かせいない栄養因子がさかんに供給されるようになる。ニューロンのつながりを強め、より多くのシナプスを作って回路網を拡張し海馬の中でニューロンの親となる幹細胞を続々と誕生させるからだ。


運動は規則正しくつづけることが大切だ。プランを立てる際には、4つの領域をカバーするようにしよう。有酸素運動、筋力強化、バランス、柔軟性である。
@有酸素運動:週に4日、30分から1時間、最大心拍数の60〜65パーセントで運動する。ウォーキングが最適だが、友人と一緒に戸外でできればなおよい。長く楽しめるものにしよう。週に2日はペースを上げて20分から30分運動しよう。
A筋力強化:週に2回。ダンベルかトレーニングマシンを使った筋力トレーニングを。
骨粗鬆症の予防に非常に有効だ。テニス、ダンス、エアロビクス、縄跳び、バスケットボール、ランニングなど。
Bバランスと柔軟性:バランスと柔軟性を重視した運動を。ヨガ、ピラティス、太極拳、空手や柔道、タンスなど。バランスボールを使うのもよい。

頭の体操も忘れないこと。自分をとりまく世界に強い関心を抱こう。ボランティア活動は有益だ。社会とつながりが生まれ、そのこと自体が脳を刺激する。他人とのつながりをもたらすものは、より長く、よりよく生きる助けとなる。


◆  『脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方』  ジョンJ.レイティ/エリック・ヘイガーマン著、野中香方子訳
     日本放送出版協会、2009/3

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