■ 『歴史は「べき乗則」で動く』 80対20ルールのこと (2016.1.18)
なかなか興味深い本だった。80対20ルールとか、パレートの法則とかにも関係あるんだ。
突然の大地震、森林の大火災、ブラックマンデーのような株価の大暴落とか、さらには生物の絶滅など、これらの発生のメカニズムには共通のルールが潜んでいるという。
それが、自然界にあまねく宿るという「べき乗則」だ。この規則は、身近なところでも観察できる。たとえば、人々の収入分布はこの規則に従い、その帰結として、大多数の人は平均未満の収入となり、少数の人が平均よりはるかに高い値をもつという。大地震がそれなりの頻度で起こるのと同じだ。「べき乗則」は極端に言うと「ひとり勝ち」を意味するという。
我々は、平均値思考やつりがね型分布に慣れすぎてしまっている。「べき乗則」では、平均値から目を離すことが求められる。「80対20の法則」といわれるものがある。20%の人が80%のお金を稼ぐとか、80%の仕事時間は20%の仕事に使われるなど。80%の仕事は重要でないからしなくてもよいという解釈もできる
――「べき乗則」と同じこと。
「べき乗則」は、そもそも1950年代に、カリフォルニア工科大学のアメリカ人地震学者――ピーター・グーテンベルクとチャールズ・リヒターが発見したものである。2人は、地震の統計を取ることで何か興味深いことが分かるのではないかと期待し、世界中で起きた地震のデータを集めた。すべての地震のマグニチュードを記録し、マグニチュード2から2.5の地震の数を数えた。
もし典型的な地震というものがあるなら、ほとんどの地震がある平均の強さの周辺に分布するつりがね型曲線のようなものが現れるはずだ。これはふつう「正規分布」と呼ばれる。ところが、地震はどうだろう。2人の得たグラフは、地震の回数をマグニチュードに対して表したものであるが、地震は大きいほど稀だということを示した。つまり、エネルギーが2倍になると、その地震の起きる確率は4分の1になるのだ。
この「グーテンベルク=リヒター則」によると、地震の大きさが2倍になればその頻度は4分の1になる。このような関係を「べき乗則」と呼ぶ。縦軸の値が横軸の値の何乗かに比例している曲線のことを指す。「べき乗則」が示唆しているのは、典型的な変動などというものは存在しないということ。巨大地震を予知することは、とてもできない。大地震はまったく何の理由もなしに起こる、ということなのだ。
地震はそれぞれ無数の条件下で発生するにもかかわらず、最終的に、グーテンベルク=リヒター則という単純ルールへと収斂する。壊滅的な地震は事実上まったく理由なしに発生するのだ。地殻が臨界状態に達しており、大変動の瀬戸際になっているからだ。初めに滑った岩石がたまたま非常に大きな見えざる手に乗っていたということ。
ブラックマンデーのような突然の株式市場の崩壊とか、こうしたシステム組織構造はどれも、小さな衝撃がシステム全体へと広がりうるようになっている。これらのシステムがまるで、剣の先でバランスを取っていて、それがいつ崩れてもおかしくない状態であるかのようだ。人間社会も「べき乗則」に従うことを表す。
生命の歴史にも、これと似たパターンを見出すことができる。大量絶滅の謎はいまだに生物学者を悩ませている。絶滅の規模(絶滅した科の数)の分布が、べき乗則に従うことが発見されたという。絶滅の規模が2倍になるとその頻度は4分の1になる。大量絶滅は進化の仕組みの中で例外的な出来事ではない。進化のもっともありふれた原理にもとづく必然の産物だったのである。
◆ 『歴史は「べき乗則」で動く 種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』 マーク・ブキャナン/水谷淳訳、ハヤカワ文庫NF、2009/8
← グーテンベルク=リヒター則
(地震の発生回数とマグニチュード)
縦軸、横軸ともに対数目盛
<野口悠紀雄『「超」集中法』から引用 P.162>
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