■ 『植物はすごい』 知ってびっくり高フ秘密  (2017.1.30)





本書は身近な植物――サクラ、アサガオ、ゴーヤ、トマト、トウモロコシ、イチゴ、チューリップの7種類――をとりあげ、ふしぎの裏側に植物たちの巧みな工夫やしくみが潜んでいることを解きあかしている。植物がどうやって季節を知るとか、体内に時計を持っているとか興味深いテーマが多いですね。

それにツボミとかタネなどの本質的な話。チューリップはオシベ/メシベの有性生殖ではなく、球根で増やすとか。エピソードも豊富、オランダで起きたチューリップ・バブルは実は病原菌に冒されたチューリップが原因だったとか。また、ゴーヤの緑のカーテンは実用的な話題です。



冒頭の第1話には、サクラが取り上げられている。なぜ春になると、サクラは花を咲かすのだろう……。実は、春に花咲くサクラのツボミは開花する前の年の夏、7〜8月につくられるのだという。秋にはすでにツボミができているのだ。春の開花の少し前にツボミが作られるのではないのだ。ウメ、コブシ、ハナミズキなどの春に花咲く樹木のほとんどは、開花する前の年の夏から秋までにツボミをつくるという。

夏にできたツボミが秋に咲かないのは、ツボミが「越冬芽」(えっとうが)という硬い芽の中に包み込まれて、秋に花を咲かせないようにしている。せっかくつくられたツボミが秋に開花してしまったら、やがてやってくる冬の寒さのために、タネはつくられず子孫が残らず種族が滅びてしまうからだ。
では、どうしてサクラは秋の間に、もうすぐ寒い冬が来ることを知っているのか、答は、葉っぱが夜の長さをはかるから。夏から秋にかけて夜の長さはだんだん長くなる。夜の長さに応じて葉っぱがアブシシン酸という物質をつくり、芽に送る。芽にその物質の量が増えると、ツボミを包み込んだ越冬芽ができる。こうして夏にできたツボミは越冬芽に包まれて春を待つのだ。

アサガオの開花もふしぎ。アサガオのツボミは暗くなりはじめてから約10時間後に開くそうだ。ツボミは夜の長さをどうやって正確にはかることができるのか?体内に時を刻むための時計をもっているのだ。これは、体内時計、生物時計など、あるいは内生(ないせい)リズム(周期性)などと呼ばれる。

イチゴを例にとれば、タネはこんな働きをしている。@暑さや寒さなどの都合の悪い環境を耐えしのぐこと。暑さに弱い植物は夏にタネになって暑さをしのぐ。寒さに弱い植物は冬にタネになって寒さをしのぐ A子孫の数を増やすこと。イチゴの1個の果実には約300個のタネがあるそうだ Bいろいろな性質の子孫を残すこと。タネをつくるとき、オシベ、メシベという性が関与する(有性生殖)。タネから生まれる植物は親とは性質が異なる。さまざまな環境の中で子孫が生きていける可能性が生まれる C自分では動き回ることのない植物たちが、生育する場所を変えたり生育地を広げたりすること。風に乗って移動し新しい生育地を求めていくものもあるし、動物のからだや人間の衣服にくっついて遠くを運んでもらおうとするものもいる。
おいしい果実をつくる植物は果実を動物に食べてもらって中のタネをまき散らしてもらう。タネを糞と一緒にどこかにまき散らしてもらえる。即物は動き回ることなく生育する場を移動し生育する場所を広げることができる。

ゴーヤは高フカーテンとして、もっともよく栽培される植物のひとつ。高フカーテンの特徴は、葉が生き生きとして景観的に美しいこと、花や実を楽しめるなど、いろいろあります。なんといっても、夏の太陽の光が窓から入り込むのを防ぎ、部屋や内部の温度の上昇を抑えられる、省エネに役立つことでしょう。
緑のカーテンの影になった場所は、まわりより2〜3度涼しいらしい。理由は葉っぱが汗をかくから。ゴーヤは葉っぱの表面にある孔から水をさかんに蒸発させる。この蒸発によって、葉っぱから熱を奪っていくので温度が下がるのだ。汗は葉っぱの表面や裏面にあるたくさんの小さな孔(気孔)から行われる。ゴーヤの葉っぱには1センチメートル四方に、約1万個の気孔があるという。
ゴーヤはなぜ苦いのか。理由は、苦いと動物に嫌われて食べられないこと。果実が熟すまでは中のタネが成熟していいないので、動物に食べられないように苦みでタネを守っているのだ。タネが完全にできあがると果実は成熟して苦みが消え甘くおいしくなる。


◆ 『植物はすごい』 田中修、中公新書、2015/7

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