■ 『地球の履歴書』 水は宇宙からやってきた (2015.12.2)
この本の読後感は独特のものだった。はかのサイエンス書とはちがいゴツゴツ感がない。冒頭は地球誕生の物語。新知識がさりげなく書き込まれている。例えば、地球の水の多くが、もともと宇宙の塵や隕石に由来するものだと
――思わず「そうだったのか!」と感じ入った。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」とは井上ひさしさんの名言だった。
本書は8つのストーリーで構成されている。いずれもが、地球の生い立ちにつながり、海のストーリーだ。著者は、科学を通して私たちの暮らす星をのぞいた短編を集めたものであるという。地球上の珍奇な場所や驚くべき出来事について科学の視点を交えながら紹介するしている。
「How Deep is the Ocean?」――ジャズのスタンダードナンバーだ――をまくらに、ストーリーが始まる。この歌には、自然と対峙するときに芽生える感情がストレートに表現されているという。この歌が生まれた20世紀後半、第一線の科学者でさえ、歌のタイトルの問いに正確に答えることはできなかったという。
45億7000万年前に地球は誕生した。宇宙空間をさまよう隕石や小惑星の数々が激しい衝突を繰り返していた。ガスや細かな塵が集まって小さな粒になる。互いの引力は、さらに強まり、それらは集まって小さな星へと成長する。小惑星同士がさらに衝突して一人前の星になるのだ。創成期の地球は、無数の隕石や小惑星が次々と衝突したおかげ灼熱地獄と化していた。
ドロドロに融けていた原始地球は、やがて、コア-マントル-地殻という三重の層構造をもつようになる。地球の水はまだほとんどが水蒸気として大気中にあった。これらの水の多くはもともと宇宙の塵や隕石の中にごくわずかに含まれていたものだ。原子地球が融けると同時に水蒸気として分離され地球の表面に集まったのである。なかには、彗星によってもたらされたものもあっただろう。
地球表面の熱は宇宙空間に向けて次々と逃げて行き、地球はさらに冷めていく。水蒸気として大気中にたっぷり含まれていた水は、大粒の雨となって大地に落ち、海をつくるようになる。原始地球が生まれてからすでに5億年ほどが過ぎていた。海の水はまだ塩辛くさえもなく、魚もいなかった。海は、多くの化学反応の舞台となり、生命を生むゆりかごにもなった。
海の深さを知るために、昔からさまざまな知恵を試してきた。長い麻縄や金属線の先に錘をつけて測るとか。20世紀に入るとまもなくソナーが開発された。水中では音は空気中よりずっと遠くまで伝わる。西部太平洋の深海底に高さ3000メートルを超える海山が数多くそびえていることがわかった。
サイドスキャン・ソナーは1980年、アメリカ海軍から放出された技術である。画像から、海底に分布する岩礁や溶岩などが手に取るように分かる。シー・ビームでは、指向性の強い多数の音波ビームを船底から海底にむけて扇形に発信し、航路に沿った幅数キロメートルの海底の詳細な地形図を、コンピューターによる高速なデータ処理で描くことができる。
海底に潜む巨大火山。巨大噴火の影響は人類社会が今後間違いなく直面する問題になるだろうと警鐘を鳴らしている。成層圏中にまき散らされた火山灰は太陽からの光を遮り、地球の表面を少しだけ冷やしたのだ。
◆ 『地球の履歴書』 大河内直彦、新潮選書、2015/9
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