■ 『ゾウの時間ネズミの時間』 本川達雄著、サイズの生物学 (2021.1.9)
本川達雄さんは動物生物学を専攻する大学教授である。
最近、『おまけの人生』というエッセイ集を読んだのだが、その「まえがき」を紹介しておこう。。
老いとは、生物学的に言えば、生殖活動ができなくなることである。
生物とは子どもを産んでなんぼのものであり、生殖活動ができなくなれば、生きている意味はない。
もちろんそれは生物としての話しであり、人間は別の価値も意味ももっているのは確かなのだが、
思えば戦後の70年で、生物としては無意味な時間が30年もできてしまった。まあ「おまけ」と言ってもいいだろう
生物としての存在は生殖活動にあるとすれば、おまけの期間は、生殖活動をすればよいのだと思っている。
とはいえ、なまなましい生殖活動ができなくなったのがこの期間。そこで「広い意味での生殖活動」をする、
すなわち、次の世代を育てる。具体的には孫を育て、地域の子供たちの面倒を見、学校の支援にボランティアとして参加する等々。
◆ 『おまけの人生』 本川達雄、文芸社、2014/10
当SMARTサイトの読書ノートでは、他にも本川達雄さんの著作を紹介してる。
◆ 『生物多様性』 [私]から考える進化・遺伝・生態系 (2015.4.4)
サンゴに寄せる著者の愛情は尋常ではない。それが生物多様性への危機感につながっている。
そして、日本人は、ライフスタイル・<私>観・自然に向き合う姿勢を、変えるべきだと警鐘を鳴らしている。
世代を見通した視野をもつこと、私個人だけを大切にする極端な個人主義を排することだと。
⇒ こちら
■ 本川達雄さんの名著 『ゾウの時間ネズミの時間』を紹介しよう
―― 第1章「動物のサイズと時間」を読んでみる
ネズミはちょこまかしているし、ゾウはゆっくりと足を運んでいく。体のサイズと時間との間に、何か関係があるのではないか。
たとえば心臓のドキン、ドキンと打つ時間間隔をネズミで測り、イヌで測り、……ゾウで測り、おのおのの動物の体重と時間との関係を求めてみた。
いろいろな哺乳類で体重と時間とを測ってみると、こんな関係が浮かび上がってきた。
▽ 時間は体重の1/4乗に比例する
1/4乗は平方根の平方根だから、体重が16倍になると時間が2倍になる計算
つまり大きな動物ほど,何をするにも時間がかかるということ。体重が16倍なら時間も16倍という単純な比例とは違い、体重の増え方に比べれば時間の長くなり方はずっとゆるやかだ。
この1/4乗則は、時間がかかわっている様々な現象にあてはまる。たとえば、寿命をはじめとして,おとなのサイズに成長するまでの時間、性的に成熟するのに要する時間
等々。
日常の活動の時間も、やはり体重の1/4乗に比例する。息をする時間、心臓が打つ間隔、血が体内を一巡する時間 等々。
1回転してもどってくる時間が,大きいものほど長くかかり、小さいものはほどくるくるとすばやく回転しているのだ。
時は万物に平等に与えられるというが、生物学によればそうでもないらしい。ゾウにはゾウの時間、ネズミにはネズミの時間と、それぞれ体のサイズに応じて違う時間の単位があるらしい。
時間に関係のある現象がすべて体重の1/4乗に比例するのなら、時間に関係するものから、任意の2つを組み合わせて割算をすると、体重によらない数が出てくるだろう。
例えば、寿命を心臓の鼓動時間で割ってみよう。そうすると、哺乳類ではどのどう物でも一生の間に心臓は20億回打つ計算になる。
物理的時間で測れば、ゾウはネズミのより、ずっと長生きである。ネズミは数年しか生きないが、ゾウは100年近い寿命をもつ。
もし、心臓の拍動を時計として考えるならば、ゾウもネズミもまったく同じ長さだけ生きて死ぬことになるのだ。
人間の考え方や行動なども、ヒトという生物のサイズを抜きにしては理解できない。サイズという視点を通して、生物そして人間を理解しようというのが本書のねらいである。
◆ 『ゾウの時間ネズミの時間 サイズの生物学』 本川達雄、中公新書、1992/8
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