■ 2000年 ぼくのベスト・ワン (2001.01.07)

20世紀の幕切れは、東フィル定期演奏会で大野和士が指揮したマーラーの交響曲第9番となった。2000年のベスト・ワンとしたい。

ちなみに、朝日新聞の12月13日版には、音楽界2000年の回顧として「私の5点」の記事があった。選者は、白石美雪(音楽評論家)、長木誠司(音楽評論家)、東条碩夫(音楽ジャーナリスト)、畑中良輔(音楽評論家)の4氏である。選出の基準は明記されていないが、国内の演奏会で、かつ演奏者が日本人に限られるのであろうか。

白石美雪、長木誠司の2氏が選んだ5点を以下に書き写してみよう。ラッヘンマンの歌劇「マッチ売りの少女」とグルリットの歌劇「ヴォツェック」が両氏に共通する。このうち演奏会に顔を出したのは、長木誠司氏の選出したシュレーカーの歌劇「はるかなる響き」のみ。大野和士のプロデュース/指揮であった。

音楽では、「良い演奏だった」と後から言われても追体験できないのが残念。絵画であれば美術館に出かければいいし、美術全集もある。ベストセラーであれば本屋に注文して手に入れることができる。映画は、今ではビデオとかDVDの方がむしろ普及している。気に入った場面を繰り返し鑑賞することもできる。

音楽では、既に演奏は消え去っていて、もう一度聴衆として参加することはできない。レコードとかCDに記録された演奏があったとしても、あのゾクゾクするようなリアルタイムの感激を体験することはできない。CDを聴くことは、演奏会とは別の複製芸術の鑑賞と言えよう。定評のある評判になったものだけを追いかける、旧来のものを認めるという立場にどうしてもなる。逆に、新しいものを発掘しよう、演奏者の挑戦意欲を称えよう、創造的な態度を認める、ということが失われるように思う。

演奏会では、会場の騒音とか聴衆の耳障りなノイズも演奏のひとつの構成要素として許容することが要求されるだろう。先に挙げた大野和士のマーラーの演奏会では、最終楽章で発せられた聴衆の盛大な咳が問題になった。BBSでも大分議論されたましたね。

……朝日新聞(2000.12.13)から 音楽界2000年の回顧 「私の5点」

◆白石美雪(音楽評論家)
・ラッヘンマンの歌劇「マッチ売りの少女」 東京交響楽団(3月4日、サントリーホール)
・芥川作曲賞選考演奏会での山口恭子、伊東乾、法倉雅紀、望月京の作品(8月27日、サントリーホール)
・NHK交響楽団定期演奏会 ショスタコービチ「交響曲第13番『バービ・ヤール』」ほか(10月20日、NHKホール)
・読売日本交響楽団によるグルリットの歌劇「ヴォツェック」(演奏会形式) (11月7日、サントリーホール)
・タン・ドゥン「新マタイ受難曲―永遠の水」 (11月16日、東京オペラシティコンサートホール)

◆長木誠司(音楽評論家)
・シュレーカーの歌劇「はるかなる響き」(演奏会形式) 東京フィルハーモニー交響楽団(1月16日、オーチャードホール)
・ラッヘンマンの歌劇「マッチ売りの少女」
・安部幸明の室内楽作品 流亞風弦楽四重奏団(3月23日、王子ホール)
・高木東六のオペラ「春香」復活上演 (5月28日、カザルスホール)
・読売日本交響楽団によるグルリットの歌劇「ヴォツェック」



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