■ チョン・ミョンフンの振った 《イドメネオ》 (2007.7.15)
東フィル 第738回 オーチャード定期演奏会に行って来た。モーツアルトの歌劇《クレタ王 イドメネオ》の演奏会形式の公演。2007.7.15(日) Bunkamura オーチャードホール。
大型台風の4号がちょうど東京を直撃とのことで、直前まで演奏会が開かれるのかどうかヤキモキ状態である。東フィルのホームページをクリックして何回も確認したのだが、ようやく11時には、やるとの結論が出た。開演時間の15時には、台風も過ぎ去ったようで風雨は弱まり晴れ間さえ見えたのでは。
《イドメネオ》は大好きなオペラの一つ。数年前には東フィルのオペラ・コンチェルタンテでも公演があった。
2002/11月 東フィル オペラコンチエェルタンテ 沼尻竜典指揮
2006/10月 新国立劇場 ダン・エッティンガー指揮
今回の公演、ちょっと気が早いかもしれないが、個人的なコンサート経験では、今年のベスト・ワンではないか。チョン・ミョンフンで、これほどセンシティブな指揮ぶりを目にするのは、初めてである。
あたかも繊細なガラス器を思わせる、透明度の高いかつ完成度の高い演奏会であった。《イドメネオ》はコンサート形式でこそ真価を発揮する、とチョンは言っているが、新国立のオケ・ピットでぜひ振ってもらいたいものだ。
オケや歌手陣ももちろん素晴らしかったが、東フィルの健闘ぶりは特筆に値するのではないかな。弦楽器の軽やかな歌いぶりなど、経験の豊かさが透けて聞こえる。オーボエとかホルンなどの楽器群もバランスが良い。合唱のコントロールなど水際だった歯切れの良さだ。
序曲からして、ワクワク感が横溢する。幕開きを期待させるものであった。冒頭のイリアのアリアも清楚な感じが良い
第2幕 イリアのアリア「たとえ父を失い」など、弱音器をつけたヴァイオリンの響き、それに木管が重なって、思いっきり繊細でふるえるように、寄り添うような伴奏である。これを聴くと、モーツァルトが、初演当時この歌手に大分入れ込んでいたのではないか?とまで余計な心配をするほどだ。
しかしプログラムを読むと、このアリアは当初カット対象だったようである。誰の構成だったのか?このアリア無くして、イリアの純真無垢な心を歌い上げる場面がないではないか。《イドメネオ》のキモとも言えるのでは。
合唱の迫力も充分だ。東京オペラシンガーズはたいしたものだ。イリアは第3幕にも聴かせどころがありましたね。臼木あいさん(S)も可憐さがある。高音の伸びにちょっと生硬があったか。イリアは実はしんの強い女性かもしれない。
エレットラはさすがです。余裕がああった。個人的には声質は、もう少し冷徹感があったらベストだ。第3幕の長大なアリアを歌いきった。思わず拍手が出てしまうほど。イドメネオは、ヴェテランの味か。イダマンテは精一杯に聞こえた。
指揮:チョン・ミョンフン
イドメネオ:福井敬、イダマンテ:林美智子、イリア:臼木あい、エレットラ:カルメラ・レミージョ
大司祭:真野郁夫、海神の声:成田眞
合唱:東京オペラシンガーズ
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■ 新国立劇場の 《イドメネオ》 (2006.10.28)
モーツァルトの《イドメネオ》を新国立劇場で観てきた、2006.10.21(金)。
指揮:ダン・エッティンガー
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
演出:グリシャ・アサガロフ
合唱指揮:三澤洋史 合唱:新国立劇場合唱団
イドメネオ:ジョン・トレレーヴェン
イダマンテ:藤村実穂子
イーリア:中村恵理
エレットラ:エミリー・マギー
初日とはいいながら、歌手陣、指揮者・オケ、演出等々、これからの練り上げを期待させるポテンシャルの高い舞台であった。
序曲から今夜の東フィルは躍動感があり聞き応えがあった。これは指揮のダン・エッティンガーの力かな。
イダマンテ役の藤村実穂子(MS)さん。さすがに求心力、ドラマチックな演技・声量とも断トツの歌唱でした。
ソプラノには、第2幕・第3幕に美しいアリアがあります。
もし私が父上を失い (第2幕)
温かい微風よ (第3幕)
中村恵理(S)さんの繊細な歌いぶりは良かったですね。イドメネオを慕うアリアでは、木管の方にいまひとつニュアンスがあればなと感じましたが、切々とした感情が溢れていました。カーテンコールではブラボーを呈しました。
合唱の活躍する場面が数多くあったが、さすがに新国立のレベルは高い。
幕開きは、イリアが両袖から鎖につながれて登場するというショッキングな演出。イダマンテが鎖を断ち切ってイリアを解放する。
神殿を思わせる巨大な柱が林立する舞台装置はスケールが大きい。あくまでもシンメトリーを貫いた奥行きの深いものであった。
舞台前面に終始敷かれていた赤いカーペットは、アラベスクだったが、意味があるのか?
どうも第3幕はダレでしまった。初日故のつながりの悪さがあったのか。モーツァルトの原作にも問題ありか。主役がそれぞれ長いアリアを代わるがわる歌うのでメリハリがない。
もっとっも、エレットラはここが最大の山場だが。
さすがに終幕後のバレエ音楽まではやらなかった。
■ 北とぴあ国際音楽祭記念 寺神戸亮指揮 《イドメネオ》 (2004.11.13)
モーツァルトのオペラ 《イドメネオ》 を観てきた(2004.11.12)。公演は演奏会形式で音楽監督は寺神戸亮。2004年 北とぴあ国際音楽祭記念事業とのこと。12日(金)・13日(土)の2回公演の初日。会場の「北とぴあ」(ほくとぴあ) さくらホールはJR王子駅そば。収容人員は1,300人の中規模ホール。
指揮:寺神戸亮 (てらかど・りょう)
東京フィルハーモニー交響楽団コンサートマスターを経て、オランダへ留学。クイケンのもとで研鑽を積んだとのこと。
イドメネオ:ジョン・エルウィス (テノール)。
ロンドン生まれ。レパートリーは、モンテヴェルディの《オルフェーオ》、《ポッペアの戴冠》、《ウリッセの帰還》のタイトルロールなど。
イドメネオ:波多野睦美 (メゾ・ソプラノ)。
ロンドンのトリニティ音楽大学専攻科修了。日本におけるリュートソングのリーディングアーティスト
イリア:高橋薫子 (ソプラノ)
国立音楽大学卒業、同大学院修了。1990年藤原歌劇団公演《ドン・ジョヴァンニ》で本格的デビュー
エレットラ:トゥーナ・ブラーテン (ソプラノ)。
1996年、オスロの国立音楽アカデミーを卒業。ノルウェー、イスラエル、オーストリア、スイス、ドイツなどで活躍。《魔笛》の夜の女王など
アルバーチェ:畑儀文 (テノール)。兵庫県生まれ。テノール・ソリストとして活躍
オーケストラ・合唱:レ・ボレアード。96年寺神戸亮を指揮者として誕生。
開演は18:30、終演は21:40。途中休憩2回をはさんでほぼ3時間の公演。演奏会形式ということで、舞台上にオケがのる。照明を落とし、場面に応じて独唱者が入れ替わり、そこにスポットをあてる形式。嵐などの場面は照明を激しく点滅させる。オケは総勢40人ほどのピリオド楽器による管弦楽団。
音楽監督の寺神戸さんのポリシーが隅々まで浸透した演奏会でした。室内楽風の雰囲気を活かした、実に躍動感のある《イドメネオ》。透明な響き、はずむリズム。独唱者との親密なコンタクト等々。
第一に、オーケストラの頑張りではなかったでしょうか。細かいアンサンブルのミスとかいろいろ注文があるかもしれませが、3時間の長丁場、緊張感を失わず終始生き生きとした演奏を聞かせてくれました。コンサート・マスター 若松夏美さんの力が大きかったと思います。ナチュラル・ホルンなどは音程のコントロールが難しそう。
歌手では、イリアの高橋薫子さんがチャーミングで素晴らしかったですね。第2幕、第3幕のアリア、いずれもしみじみとした情感があふれて、それぞれに素晴らしい歌いっぷりでした。バックのオケも、注文すれば木管の彩りがもっとあればとかありますが、不満はありません。拍手のタイミングが無かったのが残念。
イドメネオはヴェテランらしい安定した歌唱ではなかったでしょうか。イダマンテはメゾの波多野睦美さん。自信にあふれた演奏でした。イリアとはもっと声質的な差が出ると良かったと思うのですが。エレットラにはもう少しあくの強さを期待しました。
第3幕の幕切れのインテルメッツォ。やはり、現代の演奏としては不要の感が強いな。もう既に幕は下りたとの感覚のなかで、バレエもなしで、延々とオケの演奏が続くのはつらい。
■ 東フィルのオペラコンチエェルタンテ公演 《イドメネオ》 (2002.11.09)
東フィルの第667回定期演奏会(オーチャードホール、2002.11.7)はオペラコンチエェルタンテ公演でモーツァルトのオペラ・セリア《イドメネオ》
指揮&チェンバロ 沼尻竜典
イドメネオ(テノール):福井敬
イダマンテ(テノール):吉田浩之
イリア(ソプラノ):幸田浩子
エレットラ(ソプラノ):緑川まり
アルバーチェ(バリトン):萩原 潤
神官(テノール):真野郁夫
海神の声(バス):成田眞
合唱:東京オペラシンガーズ
実に水準の高い、オペラコンチェルタンテ形式の特徴――指揮者のポリシーが浸透――を発揮したオケ、独唱者ともども緊張感にあふれた演奏会でした。これだけのものを定期演奏会で、かつ1回かぎりとはもったいないことです。
指揮の沼尻竜典さんがリードし、独唱、合唱それにオケの3者が実力を十分に出し切りました。特に東フィルには感心しました。モーツァルト25歳の瑞々しい響きを完璧に実現していました。このところの東フィルは好調だと思います。
歌唱ではイリアの幸田浩子さん。素晴らしかったですね。第2幕2場 第11曲
イリアのアリア、「今やあなたが私の父」が素晴らしい。 イリアがイドメネオに心を開き、クレアを祖国とし、イドメネオを父とする旨を、しみじみと情感をこめて歌う。思わず拍手。オケも文句ありませんでした。弱音器つきのヴァイオリン、フルートそれにホルンがからみ、絶妙のバランスです。幸田浩子さん、次は新国立劇場でR・シュトラウス《ナクソス島のアリアドネ》でツェルビネッタとのこと。
緑川マリさんのエレットラ(エレクトラ)は安心して聞けました。イダマンテのメゾ・ソプラノのバージョンを聞きたかったというのは無い物ねだりでしょうか。
■ アーノンクール指揮の《イドメネオ》
アーノンクール指揮のCDを聞いた。1980年の録音 (TELDEC
8.35547 ZB)。
アーノンクール指揮 チューリッヒ歌劇場モーツァルト・オーケストラ
イドメネオ ヴェルナー・ホルヴェーク(T)
イダマンテ トロウデリーゼ・シュミット(Ms)
イリア ラッヒェル・ヤーカー(S)
エレットラ フェリシティ・パーマー(S)ほか
アーノンクールの演奏は実にメリハリの効いたもの。ティンパニを強烈に打ち込むのが印象的。古楽器の弦も強いアクセントで弾く。
原典版というのか、イダマンテはメゾ・ソプラノが歌う。バレー音楽も演奏される。例えば終幕の合唱が終わっても、バレー音楽が延々と続く。CDで聞き通すのは、レチタティーヴォもたっぷりなのでさすがに長いという感じ。3幕の合計で3時間15分あった。
◆ アーノンクールの演奏は → こちら