■ トスカニーニの《オテロ》 (2000.8.17)

トスカニーニの指揮した《オテロ》を聞いた。演奏はNBC交響楽団。オテロはラモン・ヴィナイ、デスデモナをヘルヴァ・ネルリ、イアーゴをジュゼッペ・ヴァルデンゴが演じている。1947年の録音、もちろんモノラルのCD。隠れもない天下の名盤である。

ヴェルディが 《オテロ》 (4幕4場)を作曲したのは61歳のとき、既に隠遁生活にあったのだが、ボイートの持ってきた台本に動かされた。完成には7年を要し、初演は1887年スカラ座で。このときトスカニーニはオーケストラピットでチェロを弾いて初演に加わった。ヴェルディはこの後、やはりシェイクスピア作品を元にした《ファルスタッフ》を完成し1901年88歳の生涯を終えた。

オペラ自身はもちろん、演奏も傑出したものであることを再認識したのだった。トスカニーニの演奏を特徴づけるのは、まず第一に、すぱりと切れ味の鋭いダイナミズム。ピチカートのリズム感、そしてピッチの揃った早いビブラートに支えられた強靱なカンタービレである。

この《オテロ》の演奏では、オペラに内在する二極対立が改めてくっきりと眼前に提示される。オペラは、冒頭の嵐の場面から終幕のデスデモナの死に向かって、動から静、死へとダイナミックレンジが大きく変化して収束する。このなかで、栄光と挫折、正義と邪悪、剛毅と奸智、群衆と英雄、官能と清純など、対立する二つのテーマがすべての場面に光と影のように現れる。トスカニーニの演奏ではこの対立の構図をはっきりと意識させられる。オテロを演ずるラモン・ヴィナイも好調である。この歌手陣と呼応するようにオーケストラ(NBC交響楽団)が雄弁に鳴り響いた効果だろうか。

確かにオーケストラの楽譜にはワグナーの影響が感じられる。従来のイタリアオペラの叙述的な音楽から、心理描写の音楽へと広がりを持っている。また劇の先々を予見させる響きがするのである。一例として第3幕 嫉妬に狂うオセロのバックのオーケストラを挙げたい。悲劇の終末が痛切に伝わってくる。もちろんヴェルディの特長である簡潔で男性的な音楽は失われていない。



第1幕 港 嵐をついての帰還。スペキュタクラスな幕開き。オテロの声が群衆の上を突き抜けて響く。主役のこれだけドラマチックな登場は他に例が無いのでは?イヤーゴの奸計が芽生える。デスデモナとオテロの愛の二重唱、トリスタンを思い出させる。幕切れはオテロとイアーゴの復讐の誓い。
第2幕 宮殿の庭を見晴らす広間 イヤーゴはカッシオをそそのかす。クレードを歌い自らの意志を固める。
第3幕 大広間 オテロの嫉妬心を一層あおる。ベネチアの大使が到着。大使の目の前でオテロはデスデモナを打ちすえる。
第4幕 デスデモナの寝室 デスデモナの純潔を知りオテロは自ら命を絶つ。




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