■ マイヤーベーアの 《ユグノー教徒》 DVDを視る ( 2001.6.24)
東京のCD店でマイヤーベーアの《ユグノー教徒》(ドイツ語版)のDVDを手にした。外盤であるが日本語字幕付きとある。3,490円とDVDとしては手頃である。かねて名前だけは聞いていたグランド・オペラの代表作品《ユグノー教徒》は初めてである。(ARTHAUS
MUSIK 100 157)
ジャコモ・マイヤーベーア(Giacomo Meyerbeer、1791-1864)はいわゆるグランド・オペラを確立したとされている。『オペラの運命』(岡田暁生、中公新書)によればマイヤーベーアはいわば腕のいいハリウッドの映画音楽作家の19世紀版であり、グランド・オペラはハリウッドの歴史メロドラマの原型であると言う。20世紀に入って映画の登場とともにあっという間にオペラ劇場の舞台から姿を消したのは、偶然ではなかった。
グランド・オペラは次のように定義される。
・長大な上演時間と豪華な舞台装置
・壮大な歴史パノラマ、運命に翻弄される男と女
・随所で「タブロー」と呼ばれる壮大な群衆場面を配する
・フランスの伝統に従って2幕か3幕にバレエを入れる
・覚えやすい勇壮な行進曲風の旋律、壮大な合唱、甘美な女声のコロラトゥーラ、とろけるような愛の二重唱
《ユグノー教徒》は1836年の作品。記念碑的な規模を持つ5幕オペラ。パリで1903年までに1000回、ウィーンで1900年までに500回以上上演されたほどの人気を集めた。1572年の聖バーソロミューの虐殺を背景に、ユグノー教徒(新教徒)の騎士ラウールと、カトリック教徒(旧教徒)のサン=ブリ伯爵の娘ヴァランティーヌの波乱に満ちた恋の悲劇。2人を見守るマルグリート王妃(S)、ヴァランティーヌの許嫁ネヴェール伯爵(Br)、ラウールの兄マルセル(B)らのそれぞれの思いがからみ合う。最後はプロテスタントに改宗したヴァランティーヌが、父・サン=ブリ伯爵の追撃の中、ラウルと共に死に絶える。
挟み込まれたリーフレットを読むと。このDVDは、マイヤーベーアの生誕200年を記念して1991年ベルリンで上演されたものの録画。演出のジョン・デュー (John Dew)は、原作の背景である16世紀フランスの宗教戦争を、現代の東西ベルリンを隔てる壁に置き換えた。この初演は1987年、ベルリンの壁解放は1989年。宗教戦争は、人間の根源に潜む狂気の対立として描いている。
長大な群衆劇の印象、全5幕156分を要している。大人数の舞台をうまくコントロールした演出だったと思う。壮大な歴史パノラマを楽しむという訳にはいかない。ナチによるユダヤ人虐殺のイメージが重なる。第2幕のプールは「上流階級」の象徴、水着はサービスか?
2人の心理描写にしても大味なのはしょうがない。第5幕は終局に向かって緊張感はあるが、仲間を救うか愛をとるかの葛藤の繰り返しで2人の重唱が長々と続く。
◆キャスト マルグリート王妃 アンジェラ・デニング、ヴァランティーヌ ルーシー・ピーコック、ラウール リチャード・リーチ、サン=ブリ伯爵
ハルムト・ヴェルカー
◆ドイツ・オペラ・ベルリン 指揮 ステファン・ゾルテス