■ 『クラシック音楽とは何か』 コンサートホールの交響曲 (2018.2.1)













音楽好きにはいろいろなパターンがある。自分が日頃聞き楽しんでいるのは、いわゆる「クラシック音楽」と称するものだが、これを公言すると、ときに煙たがれらることがある、なぜだろう。その理由が本書から分かるのかな?

クラシック音楽の最も端的な定義は、著者によれば「コンサートホールで上演される音楽」だという。コンサートという制度は18世紀の終わりに生まれ、19世紀に完全に確立された。いわば音楽美術館であった。誰もがチケットさえ買えば平等に素晴らしい音楽を鑑賞する権利を手にしたのだ。そのなかで、交響曲はコンサートホールで上演するために作曲された音楽、いわばコンサート用音楽のメインディッシュであり、コンサートの締めでもある。

交響曲というジャンルが持つ特別なオーラを決定的にしたのは、ウィーン古典派の3人の巨匠、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンだという。彼らが交響曲のジャンルを確立した。ハイドンとモーツァルトの交響曲はまだ人々に熱く呼びかける音楽ではなかった。彼らの作品にはわずか貴族的なクールさがあった。交響曲をして群衆を鼓舞するような音楽へと高めたのはなんといってもベートーヴェンだ。ベートーヴェンは確かに音楽における稀代の名演説家であり、交響曲の構成に政治集会のような性格を与えた。問いかけと否定、そして呼びかけ――これがベートーヴェンの音楽の重要な基本性格である。

クラシック音楽は1回的な共同体体験だという。だからクラシックは宗教儀礼に近いところがある。ベートーヴェン以降のクラシックは、音楽それ自体をまるで宗教のように礼拝することをを求めるものとなった。多くの長いクラシック音楽は、退屈というイニシエーション(参入儀礼)を通って初めて何かが見えてくる。コンサートホールという修行の場に監禁されて、否応なしに通して聴くことを強制されて初めて見えてくるのだ。

クラシック音楽の黄金時代は19世紀だった。そして現代はいわばブランド化の時代だ。近代社会は、市民自身がワンランク上のハイソな生活スタイルとして、固有のスタイルを創出することができなかった。結局、イメージの原型は、19世紀までのヨーロッパの王侯貴族や上流ブルジョワの生活スタイルを踏襲しているだという。そしてクラシック音楽もまた、とりあえずこのような華美な高級ブランドとしての価値を保持しているわけだ。


◆ 『クラシック音楽とは何か』 岡田暁生、小学館、2017/11
  同じ著者の本:『オペラの運命』

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