■ 『還らざる道』 浅見光彦の活躍  (2014.11.12)






ミステリーを読むのは、自分のようなせっかち人間には苦手である。とにかく犯人を知りたい一心で、ページをめくるのがもどかしい。いよいよ、犯人像が明らかになる終末近くになれば、一挙に数ページを、内容も確認せずに読み飛ばしてしまう。

それなのに、本書を手にとったのは、ひとえに、著者・内田康夫の創造した「浅見光彦」なる人物に一度見参したいと思ったからである。


浅見光彦は、スマートな青年である。兄貴が警視庁のエリート幹部のようだ。卓抜した推理力と行動力。あの憧れのスペシャリティー・カー トヨタ・ソアラを乗り回しているのだ。それに、行動をともにするヒロインの若い女性が、とびきり美人なのが、ちょっとうらやましい。

巻末に附された、著者の自作解説によれば、本作は、まずまずの力作で読み応えがある、との評価である。かつて、2006年に祥伝社からハードカバーで刊行された。伊豆の土肥金山に材を取った『喪われた道』(1991年刊)とともに、道シリーズになるようだ。70年の歳月の時空を超える因縁話だという。人は誰しも、忘れてしまった、あるいは忘れてしまいたい過去をもっていると。

本作の読後感として、松本清張の『砂の器』に似た雰囲気を味わったと言っても、ネタバレにはならないだろう。しかし、「旅情ミステリー」として読むのが正解かなと思う。

著者の言うように、時間空間の旅がテーマになっているのだ。事件に関係する人々の歴史が明かされると同時に、因縁のドラマが展開する。プロローグは浜名湖畔の舘山寺温泉。木曽路をスタートして、矢作ダムで死体が発見される。舞台は愛知県足助町(あすけ)である。足助町には香嵐渓(こうらんけい)という桜と紅葉で有名な名勝がある。浅見光彦は、岐阜県加子母村(かしもむら)を走り回り、ついには岡山県木之子町(きのこちょう)まで飛んで、事件をさぐる。


◆ 『還らざる道』 内田康夫、文春文庫、2014/11

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