■『生物多様性』 [私]から考える進化・遺伝・生態系 (2015.4.4)








サンゴに寄せる著者の愛情は尋常ではない。それが生物多様性への危機感につながっている。そして、日本人は、ライフスタイル・<私>観・自然に向き合う姿勢を、変えるべきだと警鐘を鳴らしている。世代を見通した視野をもつこと、私個人だけを大切にする極端な個人主義を排することだと。




地球上には、わかっているだけで190万種もの生物がいるそうだ。これほど多様な生物が見られるのは、さまざまな環境があるから。生物は時間をかけて環境に適応し多様な種を進化させてきたのである。

多様性が最も高いのは、陸では熱帯雨林、水界ではサンゴ礁である。熱帯雨林では「送粉共生」が大きな役割を果たしている。多くの植物は目立つきれいな花を咲かせて昆虫にアピールして受粉してもらう。実を鳥やサルやコウモリなどに食べてもらって中の種子を糞として広い範囲にばらまく。生物多様性の主役は昆虫と被子植物である。

サンゴ礁の生物多様性はなんと高いのか!沖縄は亜熱帯にあり、海水中には窒素やリンという栄養塩類が少なく外洋には生物が少ない。にもかかわらずサンゴがきわめて豊富である。植物プランクトン(褐中藻)がサンゴの体内に隠れて、細胞の中に住んでそこで光合成をしている。

サンゴと褐中藻は共生関係だ。サンゴの排泄物は良い肥料となる。褐中藻はこの排泄物をもらい受ける。さらにサンゴの呼吸結果の二酸化炭素を光合成に使う。サンゴはわざわざ自身をつくり変え中の褐中藻にたっぷりと光りを浴びさせ光合成しやすくしている。一方、サンゴのメリットは食べ物をもらえること。褐中藻が光合成で作った炭素化合物をもらい、そのエネルギーで石灰の家を建て巨大なサンゴ礁をつくり上げる。

生物多様性が高いことにより、以下に挙げるような生態系サービスが拡大する。
@供給サービス:人間の暮らしに直接役に立つ物品を提供してくれる。
A文化的サービス:多様な生物が多様な文化を育ててくれる。
B基盤サービス:空気や水や土やエネルギーや栄養など、人間を含めたすべての生物が存在するための基盤への貢献。植物はほとんどすべての生物にとっての食物供給源だ。さらに大気中の酸素濃度だけではなく、二酸化炭素の濃度を今の値に保つのにも大切。光合成によってつくられた食物は動物のエネルギー源だ。ほかに、調整サービスといえるものがある。たとえば大雨が降っても、森が洪水を防いでくれることとか。

いま生物多様性が非常な勢いで失われているという。これからさまざまな生態系サービスを受けられなくなるのか。絶滅の7割は生物の生息場所が破壊されたことが原因だという。人間が多くの生物を絶滅に追いやっているのだ。熱帯雨林では年々日本の面積の4割に相当する森林が失われているという。アジアでは木材生産、アフリカでは木材生産と焼畑農業、中南米では家畜放牧が原因だ。

サンゴと褐中藻は巧妙な共生関係にある。畑土と一緒の肥料でリンや窒素が海に流れ込む。海は富栄養化し藻類の生長を促す。サンゴは藻類に埋もれ、中の褐中藻は光不足に陥る。そのため、サンゴは褐中藻から栄養をもらえずに死んでしまう。異常高温でも褐中藻がいなくなる白化現象が起きる。水温がたった1度変わるだけで破滅的なことが起きる。今のペースで温暖化、海洋汚染などが進めば、近い将来にすべてのサンゴ礁が破壊される危機に陥るだろう。

生物多様性の問題は、この多様な世界を次世代に残すべきであるという、大きなテーマだ。


◆ 『生物多様性』 本川達夫、中公新書、2015/2

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