■ 『ネクスト・ソサエティ』 (ドラッカー) 日本の先送り戦略は成功するか (2002.9.23)



ネクスト・ソサエティが到来する。若年人口の減少であり、労働力人口の多様化であり、製造業の変身であり、企業とそのトップマネジメントの機能、構造、形態の変容である。日本が求められているイノベーションは、社会的な革新である。いかにして雇用と所得を確保しつつ、同時に労働力市場の流動性を確保するかという問題だという。

日本では先送り戦略が成功してきた。日本の官僚がとるべき唯一の合理的な道は、いかなる政策もとらないことかもしれない、とドラッカーは言う。――これはドラッカー一流の痛烈な皮肉なのだろうか?


先送り戦略の最初の成功は、農村部の人口という戦後日本の最大の問題を、何もしないことによって解決したこと。農業人口は60%を占めていた。離農や米作からの転換を強いるならば、深刻な社会的混乱を招きかねなかった。経済的には、日本の農業政策は失敗だった。しかし、社会的には何もしないことが成功だった。日本はいかなる社会的混乱ももたらすことなく、いずれの先進国よりも多くの農業人口を都市に吸収したと。

ネクスト・ソサエティには3つの特質がある。
(1) 知識は資金よりも容易に移動する。このため、いかなる境界もない社会となる。
(2) 万人に教育の機会が与えられる。上方への移動が自由な社会となる。
(3) 万人が生産手段としての知識を手に入れる。成功と失敗の並存する社会となる。

IT革命は、今日までのところ、IT革命の前から存在していたもののプロセスを変えたにすぎない。情報自体にはいささかの変化ももたらしていない。40年前に予測された変化は一つとして起こっていない。IT革命が行なったことは、昔からあった諸々のプロセスをルーティン化しただけ。われわれは内部の情報という片翼で飛行しているのだ。外部の情報の獲得が重要。外部のことを学ばなければならない。読み書きと、掛け算に毛の生えた程度のコンピューター・リテラシーから、情報を使ってものごとをなしとげるという情報リテラシーの域に達しなければならないと、ドラッカーは言う。そしてそれは面白く価値のある挑戦であると。

(1) 情報に通暁しなければならない。一人ひとりが情報リテラシー(情報能力)を習得する必要がある。情報という道具の使い手にならなければならない。
(2) 外部で起こっていることを理解するために、その情報リテラシーを実際い使わなければならない。いまのところ、入手可能なデータは不十分であって、かつ信頼性に欠ける。この種の情報を多少なりとも手にしているのは日本の大手商社だけである。彼らは外部の世界の生の情報をもっている。



◆ 『ネクスト・ソサエティ』P・F・ドラッカー著、上田惇生訳、ダイヤモンド社、2002/5

◆ ほかのドラッカーの著書
『イノベーターの条件』 ドラッカー
『プロフェッショナルの条件』 ドラッカーはオペラが好き


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