■ 『子どもに伝えたい<三つの力>』 斎藤孝著、生きる力を鍛える (2002.8.29)

斎藤メソッドの『声に出して読みたい日本語』は今ベストセラーである。すべての学力の基本には、母国語能力がある。母国語能力の向上のためには、名文を暗誦・朗誦することが不可欠だという。何度も反復して朗誦することによって、言語のもつ根源的なリズムが身体に染み込んでくる。この蓄積が、話すときや文章を書くときなどに生きてくるのだ。

かつて「読み書きそろばん」は基礎力の観点からダントツの威力を持っていた。現代では、生きる力として三つの力が必要だという。子どもに伝えたい力の基本は、(1)コメント力(要約力・質問力を含む)、(2)段取り力、(3)まねる盗む力。もちろん、基本になるのは日本語能力だ。

これだけで十分だろうか。いま新聞を賑わしている日本ハムの牛肉偽装事件などを見ていると、三つの力のほかに、「モラル判断力」を付け加えてもらいたいと思う。そして、子どもには「夢を創る力」も欲しいですね。

以下、三つの力を要約しよう。コメント力 (要約力・質問力)は、基本的に何かに対するレスポンスだという。何かを見たり聞いたりしたとき、ある種の「責任感」をもって応答することである。要約力とは、物事をかいつまんで説明する力。質問力は、相手の話の本質を把握する要約力が基礎になる。よい質問をするためには、メモしながら話を聞くことが必要。

段取り力とは、先を読み、さまざまな危険を予測し、緻密な段取りを組むこと。実生活での活動や仕事では、段取り力は最重要の力である。料理やスポーツのような、実際にからだを使う技芸の場合は、はっきりと段取り力が鍛えられるという。学校の勉強では、それほど段取り力は重視されていないかも。段取り力を鍛えることは、「メモ力」と相乗的な関係にあるだろう。流れていく現実の中から、段取りを見抜いてメモするという訓練は非常に重要だ。

まねる盗む力は、三つのうちでもっとも基本的な力である。日本は、かつて「型の社会」であったと言われる。型はもっとも合理的な機能を凝縮したものであり、同時に反復練習を前提に作られているものだ。そもそもが教育的な概念であり、技術の伝承を目的として作られたのが型と言える。型自体が時代遅れになっていく可能性は、否定できない。そうした場合に、状況に合わせてアレンジを加えていくためにも、上手な人の技を盗む力が必要である。


◆『子どもに伝えたい <三つの力>』斎藤孝、NHKブックス、2001/11


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