■ 『曖昧性とのたたかい』 体験的プロジェクトマネジメント論 (2005.4.16)



『日経コンピュータ』によれば、プロジェクトの成功率――品質(Q)、コスト/予算(C)、納期(D)を満たしたもの――は3割にもとどかないという。著者はプロジェクトの失敗要因を「曖昧性」に求める。そもそも要求仕様が曖昧なのだ。ユーザー/ベンダーが仕様をそれぞれ自分流に解釈してプロジェクトが始まる。プロジェクトが進むうちに解釈が大きくずれてついには破綻を来す。

曖昧性を打破するために、著者はプロジェクトの見積りがもっとも大切だと考えている。見積りはSEの開発業務の中で一番難しく、しかも一番重要な業務であると。見積りは必ずしも見通しが立っていない未来――プロジェクトのさきざき――を予測し、あたかも確定しているがごとく未来を表現しなければならない業務であると。したがって、見積りには想像力、勘といったあらゆる知的能力が要求されるのだ。

見積り能力向上のためには、見積りと実績の差を反省し発生責任を追求するのではなく、何が原因でそのような差が生じたのかを、冷静かつオープンに見極めることが大切である。そして、正しい実績データを自分なりに蓄積しなければいけない。

本書の底流となっているキーワードは間違いなく「設計」だろう。例えば、見積りという日常行為に対しても、ひとつの作業としてではなく「見積設計」と表わしている点にも、著者の真骨頂があるではないか。とにかく考え抜くことだと言う。それも身体をつかって、五感をフルに働かせて。重要な課題だったら「夢に見るほど考えよ」。考え抜いて、一歩でも曖昧さを正確に近づけることだと。
――IBMの企業標語「THINK」を思い出させますね

隅々にまで著者の体験が書き込まれている。机上の空論ではない。柔軟で多面的な発想にも目を開かされる。プロジェクト計画段階から、「人は間違える」「機械は故障する」「ソフトウェアのバグはゼロにできない」で、取り組めとか。また、著者独特の切れ味のよいアフォリズム(格言)にもドキッとする。「良い名前は幸せの始まり」や「公倍数的リーダーと公約数的リーダー」とか。

SE向け教科書としては新人にはちょっとピンと来ないかもしれない。若手管理者がプロジェクトに行き詰まったとき、ぱらぱらとページをめくるという読み方もあるだろう。処方箋のヒントが見つかるはずだ。


◆ 『曖昧性とのたたかい 体験的プロジェクトマネジメント論名内泰蔵著、翔泳社刊、2005/3
◆ 名内泰蔵:昭和14年滋賀県生まれ。京都大学工学部電気工学科卒業。株式会社日立製作所を経て、株式会社日立システムアンドサービス取締役社長を務めた。現在は同社顧問。


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