■ 『死をポケットに入れて』 Macも使っているよ (2021.5.27)
ブコウスキー(Charles Bukowski、小説家、1920‐1994)を知ったのは、古本屋の店頭で文庫本『死をポケットに入れて』を思わず手にしたからだ。
表紙の吸引力がすごかった。ウィキペディアによれば、ブコウスキーはドイツ生れとのこと。2歳のときアメリカへ移住。
1939年ロサンジェルス・シティ・カレッジに入学するが、大学を離籍しアメリカ各地を放浪し様々な職業を転々とする
……皿洗い、倉庫係、守衛、トラック運転手、郵便配達人など。
郵便局に勤務しながら創作を続ける。白血病で亡くなるまで50冊に及ぶ詩集や小説を発表した。
この『死をポケットに入れて』の原題は "The Captain is Out to Lunch and the Sailors Have Taken Over the Ship" (船長は昼食に出かけ、船員は船を乗っ取った)。
たしかに本文には「死をポケット……」との表現があるのだが、この邦題にはちょっと抵抗がある。
……わたしは死を左のポケットに入れて持ち歩いている。そいつを取り出して、話しかけてみる。
「やあ、ベイビー、どうしてる? いつわたしのもとにやってきてくれるのかな? ちゃんと心構えしておくからね」
最晩年(当時71歳か)の著作。ブコウスキーは老いてますます意気さかんだ。競馬そして飲んだくれの日々が続く。直前に永年愛用したタイプライターからパソコンMacに乗り換える。
時間をかけて書きためた数ページの文章を突然のトラブルですっかり消去されたこともあった。だが執筆に発揮されるコンピュータンの威力は認めているようだ。
……わが友、マッキントッシュを前にしていると、気分も少しはましになる。コンピューターを手に入れてからというもの、わたしの書くものはパワーも分量も倍増した。
魔法の代物だ。頭の中に閃いたある思いつきが直ちに言葉に移し変えられ、それが新たな思いつきや言葉をどんどん生み出して行く結果に繋がる。
書いた後には必ず、手を加える作業というか、修正作業がある。くそっ、以前のわたしはすべてを二度書かなければならなかった。
最初にとにかくざっと書いて、二度目に間違いを正したりまずい部分を書き直したりする。こっちのやり方だと、楽しむのも、得意になるのも、逃げ出すのも一度ですんでしまう。
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人生について書いている。わたしたちはどこまで立派になれるのか?>
ブコウスキーは意外にも音楽――それもクラシック・マニアだ。ラジオをつけてクラシック音楽に耳を傾けることなしに、どんなものであれ決して書くことはできないという。
……クラシック音楽がわたしの拠点だった。そのほとんどをわたしはラジオで聴き、今も聴いている。
そして今の今でさえ、力強くて、新鮮で、これまで耳にしたことのない音楽を聴くたびに、変わることなく驚かされている。
一晩に3時間か4時間、ほかのことをしながら、あるいは何もせずにこの手の音楽に耳を傾ける。
わたしにとってのドラッグで、1日の間にわたしにこびりついたもろもろのくだらないことをすっかり洗い流してくれる。
わたしのためにそういうことをやってくれるのはクラシックの作曲家だけだ。
◆ 『死をポケットに入れて』ブコウスキー/中川五郎訳、河出文庫、2002/1
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