■ 『地磁気逆転とチバニアン』 地球の磁場は なぜ逆転するのか (2020.6.19)
国際地質科学連合の審査を経て地質年代名として新たに「チバニアン」が誕生した(2020年1月)。地質年代の境界を規定するために選ばれる世界で1カ所だけの場所を意味する。チバニアンの時代は約77万年前から約13万年前までの期間。イタリアなど3候補地からチバニアンが選出されたのは、「千葉セクション」(千葉県市原市)で確認できた地磁気逆転の痕跡と年代による。
――ホモサピエンスが誕生したのはチバニアンの時代だ
地球の磁場が180度ひっくり返る現象が地磁気逆転だ。この現象は過去に何度も起きている。いちばん最近に起きた地磁気逆転の証拠が千葉セクションの地層から見つかっている。地磁気逆転のメカニズムは非常に複雑。現代においても解明には至っていない。千葉セクションなどの地層や岩石に刻まれた「地磁気の痕跡」から、過去の地磁気の変動や逆転の記録を見出すことで、メカニズムの解明にチャレンジできるだろう。
地磁気を発見したのはイギリス人のギルバート。「磁気学の父」と呼ばれる。「地球はひとつの大きな磁石である」との言葉を残した。ガウス(ドイツの数学者)は、地磁気データを解析し地球内部に由来するとし、双極子磁場で説明した。双極子磁場なので、地球上のどの地点でも、磁石が指す方向から北極や南極の位置がおおよそ決まる。
地震の観測結果から。地球の中心には鉄でできた中心核とそれを覆う岩石の層が存在することがわかった。固体の鉄やニッケルを主体とする内核と、その外側を覆う液体の鉄やニッケルを主体とする外核。核の外側は岩石を主体とするマントルと薄い膜状の地殻だ。
外核は電気を通す液体の金属だ。もし磁場の中で対流が起きれば電流が流れる。発生した電流は新たな磁場を作り出す。外核が対流し続ければこの磁場生成のプロセスは永遠に続くだろう。固体であるマントルも長い時間スケールでは対流を起こす。地球内部で地磁気が作られていることがわかる。これが「地球ダイナモ」。
これまでの研究で、地球ダイナモは乱流状態の外核の流れが自発的に不安定化することで地磁気逆転が起きると考えられている。マントルとの境界に近い外核の外側で時々小さな領域で逆向きの磁場を作る流れが発生する。この流れが消えずに成長を続けると双極子磁場すべてをひっくり返すことがあると考えられている。つまり地磁気は勝手に逆転するのだ。たとえば隕石衝突などによる地球外からの衝撃も逆転のきっかけとなるかもしれない。
地磁気逆転の発見者は松山基範である。溶岩の残留磁化調査から、現在の地磁気の向きと反対方向(逆帯磁)を指していることを発見。地磁気の極性が逆転を繰り返してきたという事実に気づいた。地磁気逆転の可能性自体はフランスの科学者ブルンが先に示唆していた。
地磁気極は常に移動し時には逆転もする。地磁気極の移動は、観測点の移動、つまり大陸の移動の結果と考えられないか。その地点が残留磁化を記録したあとに移動したことになるのでは。ウェゲナーの「大陸移動説」が、1950年代に突如とし復活し大きな示唆となった。岩石の古地磁気の記録が正しいこと、つまり地磁気逆転は確かに存在し、地心軸双極子仮説も正しいことを裏づけた。
過去80万年間には地磁気逆転は1度しか起きていない。過去250万年間では11回以上、およそ100万年に5回程度のペースで地磁気逆転が起きている。今から1500万年前ごろには地磁気逆転が頻発。平均的には10万年に1回のペース。地球史上には突如として地磁気逆転が」ストップしてしまう時期があるようだ。逆転の頻度は数千万年から数億年のスケールで緩やかに変動するのか。
地磁気逆転頻度の変動は、マントル対流の活発さと同期するのか。地球は誕生以来、冷え続けている。その過程で、地球体積の8割を占めるマントルは、非常にゆっくりと対流し、熱を外核から地球表層へと輸送している。マントルは地球にとって巨大な熱機関で、長い時間スケールでは地球システムを支配している。マントル対流にも周期的な変動があり、そのリズムはほぼ2億年である。マントル対流の活発化は地磁気逆転を誘発するようだ。
1830年代に地磁気観測が開始されて以降、地磁気強度は一貫して低下し続けている。このまま続くと約1000〜2000年後には地磁気強度はゼロになる。現在のこの傾向は地磁気が逆転に向かっていることを示している。千葉セクションのデータが示すように、かなり初期の段階にいる。地磁気逆転が始まるまでにはまだ最短でも数百年以上はあると考えられる。
地磁気は、大気圏を遠く離れた宇宙空間まで張り出し、太陽からの放射線や、太陽風だけでなく遠い銀河から飛来する銀河宇宙線などからも地球の表層を守るバリアの役割を果たしている。もし地球に地磁気が存在しなければ、地球の大気は太陽風によってはぎ取られてしまい、地球に生命は誕生しなかった可能性すらある。人類を含む地球上の生命や地球の気候すらも地磁気の存在と切っても切れない関係にあるのだ。
地磁気バリアが弱まれば現代社会に不可欠なインフラへの影響以外にも、動物たちの行動や、もしかすると生物の進化や絶滅にも影響が出る可能性もある。地磁気と気候変動の関係にも注目が必要だ。地磁気強度低下に伴う地域が寒冷化したことの報告がある。
◆『地磁気逆転と「チバニアン」 地球の磁場はなぜ逆転するのか』菅沼悠介、講談社ブルーバックス、2020/3
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