■ ビル・ゲイツ 『地球の未来のため僕が決断したこと』 気候大変動は防げる (2022.3.15)
SDG'sの17テーマのなかでも、気候温暖化は喫緊の課題だろう。いま世界の経営者のなかで、このテーマに対して最も切実感をもって取り組んでいるのは、あのビル・ゲイツではないか。気候温暖化という地球規模の深刻なテーマを、ゲイツはエンジニア固有の緻密さで分析し、科学・経済・政治の専門家と協力して気候変動解決のブレークスルーを永年探し求めてきたという。テクノロジーのイノベーションに期待できそうだ。「未来の技術が人類を救ってくれるのをただ待っているわけにはいかない。自分たちを救うために、今すぐ動き出さなければならない」と熱弁を振るう。
気候変動について、しっかりと頭に刻んでおくべきは「510億」の数字だという。この数字は、毎年世界の大気中に増える温室効果ガスのトン数である。年によって多少の増減はあるが、おおむね増加している。ゼロにすることが目標だ。大きな課題である。すべての国が行動スタイルを変える必要がある。動物や食物の飼育栽培について、ものづくり、人の移動、……。現代生活のすべての活動が温室効果ガスを発生させているのだから。
太陽熱は温室効果ガスを通過して地上に届くのに、そのあとで大気中の同じガスに閉じ込められてしまうのはなぜだろう。気候温暖化のメカニズムはこうだ。すべて分子は振動している。振動が速ければ速いほど分子は熱くなる。特定の種類の分子に特定の波長の放射線(太陽光)がぶつかると、分子が放射線を遮りそのエネルギーを吸収して振動が速くなる。太陽からのエネルギーは温室効果ガスをそのまま通り抜ける。大部分が地上に達して地球を暖める。地球はこのエネルギーをすべて永久に保存しておくわけではない。このエネルギーの一部を宇宙に向けて放射し返す。ちょうど温室効果ガスに吸収される波長範囲で放出するのだ。そのため、温室効果ガスの分子にぶつかって振動を速め大気を暖めてしまう。この温室効果がなければ、地球は人間が暮らせないほど寒くなってしまうだろう。
問題は余分な温室効果ガスのせいで温室効果が行き過ぎてしまうことだ。すべてのガスがこのような働きをしないのはなぜか。窒素N2や酸素O2の分子のように同じ原子2つからなる分子は、エネルギー(放射線)をそのまま通過させる。一方、二酸化炭素やメタンのように異なる原子からできている分子だけが、放射線を吸収して熱を帯びる構造をしているのだ。
温室効果ガスには二酸化炭素やメタンなどがある。産業革命以前の18世紀なかば以前には地球の炭素循環はほぼバランスがとれていた。つまり、排出されたのと同じ量の二酸化炭素を植物などが吸収していたのだ。1850年代以降、温室効果ガスの排出は劇的に増加した。化石燃料の使用など人間の活動の結果だ。温室効果ガスは熱を吸収して大気中に閉じ込める。気温は産業革命以前に比べるとすでに摂氏1度は上昇している。炭素の排出を減らさなければ今世紀半ばには摂氏1.5〜3度、世紀末には摂氏4〜8度も上がる。
二酸化炭素が増えて気温が上がることで、非常に暑い日が増えるだろう。水温が上がると海水が膨張し海面が上昇する。世界の平均海水位は2100年までに数十センチ程度上昇すると予想される。植物や動物も影響を受けることに。気温が摂氏2度上昇すると生息・生育域は脊椎動物で8パーセント、植物で16パーセント、昆虫で18パーセント狭くなるという。
温暖化対策の道は厳しい。化石燃料はありとあらゆるところに使われている。石油は世界で1日に40億ガロンも消費されているのだから。いまある再生可能エネルギー源を考えてみよう。風力と太陽光だけではゼロを達成できないことははっきりしている。排出される温室効果ガスのうち、発電が占めるのはわずか27パーセントに過ぎないのだ。 ゼロを達成するためには、太陽光・風力などのすでにある手段をもっと早く効果的に展開する必要がある。同時にブレークスルーを生み出すことだ。
電気はいまや社会生活に欠かせないもの。炭素を排出しない電気をつくることの重要性は言わずもがなだ。ゲイツは原子力の利用に楽観的である。洋上風力発電とか地熱などは、きわめて有望な手段だという。電気エネルギーを蓄えるために大容量のバッテリーが必須になるだろう。バッテリーの性能は3倍にすることはできても、50倍にすることは非常に難しい。揚水発電とか蓄熱を考えることになろう。蓄電では安価な水素によってブレークスルーが起こるかもしれない。
ものをつくるのは、年間510億トンの31パーセント。可能なかぎりすべての工程を電化すること。脱炭素化された電力網を実現することだ。移動は、年間510億トンの16パーセント。世界中でおよそ10億台の車が走っている。電気自動車を使って炭素排出を避けられるのは、電気が炭素ゼロのエネルギー源によってつくられているときだけである。輸送についての未来は、自動車は可能な限りすべて電気で動かすこと。ほかのもの――長距離トラック、列車、飛行機、コンテナ船は、安い代替燃料を使うこどだ。代替燃料はまだかなり高価。低価格化のイノベーションが求められる。
市民としてできることは何だろう。自分自身の炭素排出を減らすことではない、とゲイツは言う。みんなが炭素ゼロの代替物を望んでいて、それにお金を払う意思ががあるというシグナルを市場に送ることだと。普通よりも高いお金を出して電気自動車、ヒートポンプ、植物由来のハンバーガーを買うのは、「これには市場があります。だから買います」と言っているわけだ。それなりの数の人が同じシグナルを送ったら、企業はかなり素早く反応するだろう。
◆『地球の未来のため僕が決断したこと 気候大変動は防げる』
ビル・ゲイツ/山田文訳、早川書房、2021/8
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