■ 『「知」のソフトウェア』 材料メモで情報をまとめる (2008.9.16)


「情報のインプット&アウトプット」というのが本書のテーマ。個人の情報処理の方法論ということ。著者・立花隆はこの分野には、一般論は存在しないという。人間はすべて大脳という情報処理マシンをもっているが、そのハードウェア(大脳そのもの)もソフトウェア(頭の使い方)も違う。だから大脳の使い方の一般論は成立しないというわけだ。

本書の第1刷は1984年であり、すでに二十数年が経っている。この間の個人をとりまく情報処理のワザの革新は何と劇的であったことか。日常身辺でのパソコンの活躍ぶりはどうだ。何よりもインターネットなしに我々の情報処理は成り立たなくなっている。このベストセラーを読み直して、まったくの独断で、普遍的なテーマを拾い出してみよう。

情報のインプットは、現今であれば、新聞・雑誌を追い抜いて、インターネットが高い比率を占めるだろう。新聞の切り抜きについての実用的なワザ――切り取る道具として曲尺が最適であるといったこと――はまったく不要になってしまった。

一方、情報のアウトプットに関する方法論の提案は、ちっとも古さを感じない。立花隆は準備段階が重要であるという。人間の知的能力の大半は、無意識層にブラックボックスとして隠されているのだから、この潜在力を活用すること。

だから、「どうすればいい文章が書けるか」という問いに対しては、「できるだけ良質のインプットをできるだけ多量に行うこと」と答える。それ以外の手段は何もないと。いい文章の一義的定義は存在しない。自分がいい文章だと思えばそれでよい。多くを読むうちに、判断基準は自らレベルアップしていくだろう。いい文章を多く読むうちに、自然に書く文章も上達すると。

情報をまとめる方法論には、コンテ型と閃き型がある。まとまりのあるものを書くならば、一般にはしっかりしたコンテが必要と言われる。コンテ無し派――立花隆はこちらだ、閃き型――の発想は、材料をして流れるにまかせれば、材料自身が最適の流れを発見するだろうという考えの上に立つ。ここで頼りになるのは「材料メモ」。書き出す前に、集めた材料に目を通し、心覚えのメモを取る。これが「材料メモ」である。

材料メモは簡略であればあるほどよい。1枚に(これが重要!)すべてがおさまるように書く。全材料が一瞬のうちに視野に入るようにしておくこと。センテンスではなく単語を書くように。1語1語にできるだけ多くの情報を代表させることだ。

材料メモができたら、それを前において、とにかく書き出してみる。どの材料からはじめてもよい。しばらく書くと筆が止まるだろう。そのとき再び材料メモをのぞきこむ。次の展開を試行錯誤で見つけ出していく。再び、書いては破りがくり返される。だいたい半分を過ぎたあたりで、その先の大ざっぱな流れが自然に見えてくる。……このあたりの作業は、いまはワープロの得意技である。原稿用紙を破り捨てることはない。

◆ 『「知」のソフトウェア』 立花隆、講談社現代新書、1984/3

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