■ 『電子を知れば科学がわかる』 物質・量子・生命を司る小さな粒子 (2026-3-19)

もの(物質)は分子で作られている。その分子は、さらに小さな原子によって作られている。原子の中心にある原子核には3種類の粒子(電子・陽子・中性子)がある。このなかで、電子は最も活発であり、原子の性質を決めている。
例えば、廊下を滑らずに歩けるのは摩擦力のおかげである。床と靴の表面はミクロの視点ではデコボコです。靴の下部と床の一部に高い圧力がかかって、両方が原子レベルで結合するため、それが摩擦力として働くのだ。原子の中心には原子核があり、周囲に電子が分布している。原子核はプラスの電気を帯び、電子はマイナスを帯びている。プラスとマイナスはお互いに引き合い、電子による電気的な引力が接着剤となる。
「光」や「色」を生み出しているのも電子である。光は電子の振動によって生じる。植物の葉が緑色に見えるのは、葉に当たった光のうち緑色以外の光が吸収される。目には緑色の光だけが入ってくるので、脳は葉を緑色だと認識する。このとき、緑色以外の光を吸収しているのは、葉の色素の分子に含まれている電子である。電子が吸収した光のエネルギーは、光合成によって有機物を合成したり,酸素を発生させたりする。
電子は小さな磁石でもある。磁石にはN極とS極がありペアで存在する、電子の持つ「スピン」によって磁気が発生する。電子が自転する(スピンしている)ことは、環状の電流が発生しているのと同じで一種の電磁石と見なせる。電子の軌道運動によって磁気が生じるのだ。
原子核には陽子と中性子が集まっている。電気を帯びた粒子(電子)は周囲に電場を発生させる。電子が上下に振動すると、周囲の電場の大きさや向きも振動する。電場の振動が磁場の振動を引き起こし、その磁場の振動がさらに電場の振動を引き起こす。この電場・磁場の振動が周囲に広がっていく、これが電磁波(光)だ。
また、電子は運動エネルギーと位置エネルギーをもっている。電子は原子核の周りを円軌道で回っている。軌道の半径が大きいほど、総エネルギーは大きくなる。電子は軌道の円周の長さが波長の整数倍と一致した軌道にしか存在できない。このため電子のもつエネルギーは、とびとびの値になる。
通常、電子はエネルギーが一番低い軌道にいる。基底状態といい最も安定している。光を吸収したりすると電子はエネルギーの高い軌道に飛び移る――励起状態という。ここは不安定なので、電子はエネルギーの低い軌道に落ちようとする。地上の物体が、低い場所(エネルギーの小さい場所)に向かって落ちるのと同じ現象だ。低いエネルギーの軌道に飛び移るときに、エネルギー差に相当するエネルギーをもつ光(電磁波)を放出する。可視光線以外の電磁波も、電子の軌道の飛び移りによて発生する。
化学の主役も電子である。電子が多様な元素の性質を生み、原子どうしをつなぐ化学結合を生じさせる。ほとんどの物質は原子が結合した分子として存在したり、無数の原子同士が結合して固体になっていたりする。金属では原子の外側の軌道にいる電子は、原子からの束縛を逃れて自由に動き回れるようになっている――自由電子という。自由電子は金属の結晶全体に軌道(電子雲)が広がった電子だと言える。金属が電流を通すのも自由電子があるからだ。
原子がペアになっていない電子をもち、それらのスピンが同じ方向そろってを向いていたら、その物質は磁石になれる。鉄の場合、原子の磁石の向きがそろっているのは、狭い領域に限られている。一方、永久磁石には、別の原子が混ぜられていて(ネオジウムなど)、鉄原子の向きが変わらないように働く。
いまIT機器の主役、トランジスタは半導体である。半導体の主役も電子である。典型的な半導体はシリコン。シリコンにリン(P)を混ぜると。電子の手が一つ余る。余った電子が自由電子となり、電流の担い手となる。リンを混ぜる割合を増やしていくと、自由電子が増えて電流を流しやすくなる。電子が電流の担い手となるのを、N型半導体という。
シリコンの結晶にホウ素(B)を混ぜると、軌道に空席ができる。電子の穴だ、ホール(正孔)という。ホールはプラスの電荷をもっている。これをP型半導体P型半導体という。これに電圧をかけると、電子はプラス側に引かれるので、ホールの近くの電子が、ホールを埋めるように移動する。電子が動いたあとの場所が空席(ホール)となる。これが繰り返され、正の電荷をもった粒子が電子とは逆の方向に移動していることに相当する。
もっとも基本的なバイポールトランジスタには、PNP型とNPN型がある。トランジスタには端子が3個ある、エミッター、コレクター、ベース。ベースに小さな電圧をかけるだけで、大きな電流がコレクタ・エミッタ間に流れる、これは電流の増幅だ。
◆ 『電子を知れば科学がわかる 物質・量子・生命を司る小さな粒子』 江馬一弘、ブルーバックス。講談社、2025/6月
| HOME | 読書ノートIndex | ≪≪ 前の読書ノートへ | 次の読書ノートへ ≫≫ |